2007年08月15日

クラッキング・エッグ

クラッキング・エッグ

 連合軍は東西で大反攻作戦をはじめた。
 一九四四年六月、ドイツ第三帝国の膨張しきった占領地はまさに卵の殻のようなものだった。戦線外縁部の卵の殻にあたる部分が突破されればベルリンまで連合軍を遮るものはなにもない。
 ここはベラルーシ、プリペットマルシュの辺境にある村。この村に駐留しているドイツ軍はわずか猟兵中隊と若干の支援部隊のみだった。かつて世界最強を誇ったドイツ軍が、この地に展開できるなけなしの戦力がこれである。
 ついさきほど偵察部隊が持ち帰った報告によると市街戦で凶悪な威力を発揮するISU-152mm突撃砲を主力にするソビエト機甲中隊がこの地に向かっているという。
 大隊本部に支援要請をだしたが、この村を守りきることはできるのだろうか?

「アハトゥング、これより作戦会議をはじめる。この地図をみてほしい」

「敵の侵攻経路はおそらく北部と東部、この街道及び森林から浸透してくるだろう(矢印)。そこで我々は村を防衛するために家屋と森を盾にして戦う。さいわい88ミリ対空砲が二門、それに対戦車装備の歩兵が若干配備されているから、敵重戦車に楽々と突破されることはないはずだ」
「中隊長、我々の配置はどうされるのでしょうか」
「我々の手持ちは少ない。よって兵力を重層的に配置すれば一層一層が薄くなってしまう。そこで最重要防衛地点である中央の屋敷のまわりに後方の兵力を引き抜いて配置する。この線を突破(緑色のライン)されたら終わりだと思え」
「敵戦車対策はいかがされますか」
「後方に配置した88ミリ対空砲(赤丸部分)に任せる。戦線を突破されそうな箇所には対戦車歩兵を配置する」
「中隊長、増援の兵力はどのぐらいあてになるのでしょうか」
「とりあえず四号戦車が三両きてくれるらしい。そのほか増援は不明だが、私はこの三両を後方に配置して、敵が突破しそうなところに急行させる腹づもりだ」
「守りきれるのでしょうか」
「さいわいソビエト軍は戦車と歩兵がバラバラに突撃してくるクセがある。協同されたらやっかいだが、戦車さえ早期に倒せればなんとかなるだろう。では解散!」

 将校斥候を派遣し、敵の布陣をさぐっているうちに敵の準備砲撃がきた。

 こちらの最前線を引き受けていた歩兵分隊三つに砲撃が命中し、壊乱(上図赤丸部分)。中央の守りが薄くなる。
 そしてついに敵の主力であるISU-152が三両、稜線にあらわれる。タイガーの砲弾さえはじく分厚い正面装甲、タイガーの約二倍の口径をほこる152ミリ榴弾砲は戦車にとっても歩兵にとっても脅威だ。
 将校斥候によると北東の森林および東の街道から敵があらわれたらしい。こちらも増援の四号戦車三両が到着したが、正面切ってISU-152とは殴り合えない。とりあえず戦線の後方に配置して、敵を足止めする囮役を命じた。
 最初に口火を切ったのは88ミリ対空砲だった。巧妙に擬装された陣地から、四号戦車に気をとられている敵重戦車を次々に血祭りにあげていく。

 敵は倒れた味方戦車を盾につかって、こちらの防衛線に飛び込んでくる。152ミリ榴弾砲によって歩兵が遮蔽物ごと吹っ飛ばされた。
「これはまずいな」
「連隊長、大隊本部から通信です。タイガー戦車四両が増援に向かったそうです」

「よし、二両を88ミリ対空砲の援護に、残りの二両を全速で最右翼に回して敵の後背に回るように連絡。迂回に時間はかかるが、成功すれば敵を狙い打ちにできるぞ」
 タイガー戦車が戦線に進撃してくるあいだに囮につかっていた四号戦車が一両犠牲になる。また、集中射撃を食らった88ミリ対空砲一門、75ミリ対空砲二門がお釈迦になった。中央部の防衛力はこれでかなり低下したが、この頃から敵歩兵の浸透攻撃が盛んになってくる。
「中隊長、撤退を許可してください。このままでは全滅します!」
「ダメだ。右翼と左翼から兵を回すから耐えるんだ」
「いまから陣地転換をしても、間に合わないのではないでしょうか」
「なにもしないよりはマシだ」
 そのとき、やっと88ミリ対空砲の援護を命じた二両のタイガー戦車が戦場に到着した。適当な遮蔽物をあいだにおいて横合いから敵戦車を次々に仕留めていく。

 だが、布陣した位置から、すべての敵を制圧することはできない。敵は稜線に隠れてタイガーや88ミリ砲の射線から隠れ、歩兵とともに中央突破をはかる。
 そうはさせじと前進するタイガーだが、敵は対地戦闘爆撃機に虎退治を要請し、この攻撃で一両が撃破された。

 敵の歩兵中隊による肉迫攻撃により、前線の歩兵に被害が続出し、応援に派遣した右翼や左翼の兵も敵砲火に射すくめられ、動けない。
「どうやら敵は中央突破をはかっているな」
「このままでは突破されるまで時間の問題です」
「耐えるしかない。タイガーはまだか」
 そこへようやく後方へ回っていた二両のタイガーが敵の背後から攻撃をはじめる。敵重戦車はすべて撃破され、歩兵は半包囲されてパニックになり、一気に士気が崩れて降伏した。

 卵の殻は守られたのだ。


このリプレイはコンバットミッションを使いました。

投稿者 teitoku : 13:49 | コメント (2) | トラックバック

2005年12月25日

リプレイ HOI2 第三帝国

「ハイル・ヒトラー」
 さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。
 総統のお庭に集う軍人たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
 汚れを知らない心身を包むのは、ドイツ陸軍と武装親衛隊の軍服。
 階級章とハーケンクロイツは乱さないように、ドクロマーク付きの軍帽は翻らせないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。
 ドイツ第三帝国。ここは軍人の園。

 ハーツ オブ アイアンⅡ【完全日本語版】発売を記念してドイツ第3帝国リプレイ記事をまとめます(筆者の環境は日本語版ではなく、英語版バージョン1.3に日本語化パッチをあてたものですが)。

 難易度ノーマル
 CPUの好戦度HARD
 1936年シナリオ
 選択国ドイツ


1936年1月1日

「ハイル・ヒトラー」
「ハイル・ヒトラー」
 床屋の親父が似合っていそうなチョビ髭の小男、ヒトラーに貴族出身のドイツ高級軍人たちが一斉に敬礼を捧げる。
 その顔つきは苦々しげなものから純粋な崇拝の念まで様々だった。
「諸君、ありがとう」
 ドイツ第三帝国の総統にしてドイツ国民の期待を一身に集めるヒトラーはそういった。
「ところで昨晩のことだが、余は一幕の夢をみた」
 いきなりなにをいいだすのかと、けげんそうに首をかしげる一堂から目をそらし、ヒトラーは続ける。
「余は、夢の中でドイツが燃えている姿を見た。東西から米英ソ連合国に挟み撃ちにあった我が第三帝国は灰燼と消えていったのだ」
 ヒトラーは居並ぶ将軍たちを炯々たる瞳で睨みつける。
「余はドイツを灰にする気はない。今日の会議はドイツ第三帝国百年の計を練るものである。諸君らもそれを肝に銘じて必勝策を考えてもらいたい」
 そして会議がはじまった。
 陸海空の将軍らはばらばらな意見を述べる。
 結局、ヒトラーは第一目標として国内の工場群の性能を高める政策を、第二目標として戦車師団を含む陸軍の大増勢、第三目標として英国本土強襲上陸に使える艦隊を二セットと輸送船団及び護衛艦隊の増勢を命じた。潜水艦の開発は中止。空軍については迎撃機と戦術爆撃機の開発を命じただけであとは事実上の開発中止が命じられる。
「イギリスある限り、我が軍は常に挟み撃ちの危険を免れない。だが、邪魔ならば占領してしまえばいいではないか」
「それではこの編成は対英作戦を考えた布陣なのですね」
「もちろんだ。だが、上陸作戦は1942年以後になるだろう」
「しかし総統閣下、海軍に生産力を傾注しては対ソ戦の戦力が危ういのではないでしょうか」
「もちろん対ソ戦も大事だが、それ以上にイギリスとその背後にいるアメリカは目障りだ。余はアメリカ参戦につながるような戦略はできるだけとらないつもりだが、やつらが参戦してきた時には諸君らの健闘に期待するものである」
 居並ぶ将軍たちは目の前の床屋の親父を奇妙なものを見る目つきでみた。そこにいるのはとんでもない先読みの天才か狂人のどちらかだ。
「まずはフランスとの国境線沿いにあるラインラントに進駐する。これをやると連合国との関係は悪化するが、やらないと我がドイツ国民の不満度があがる。損得でいえば関係悪化のほうがマシだ。その後、軍備を充実させつつスペインのフランコを支援し、オーストリアを併合、次にズデーデンランドをチェコから奪う。残余のチェコはハンガリーと二分し、ハンガリーを枢軸の同盟国として迎え入れるつもりだ」
「しかし、ハンガリーは同盟軍として役にたつのでしょうか」
「後方の占領地でパルチザンを狩らせるぐらいの役目はこなせるだろう。征服戦争には頭数が必要だからな」
 ヒトラーはにんまりと笑った。
 こうして歴史は総統の計画通りすすみ、ドイツ軍はポーランド国境線沿いに集結した。
「総統閣下、図上演習の結果ですがポーランド軍は意外と手強い敵と判明しました」
「戦車もろくに持っていないあの国がかね」
「はい。攻撃力は弱いのですが、平押しに押すと首都ワルシャワに立てこもられる可能性があります。三〇個師団以上で首都にたてこもられると戦争は長期化いたします」
「ふむ、それでは我が軍の機甲師団をワルシャワにもっとも近いケーニヒスベルグに全軍展開させたまえ。そして開戦と同時に突撃させて首都を包囲してしまえばよい。副次的にポーランド北方の敵軍を包囲した形にもなる」
「なるほど、さらにハンガリー方面から北へつきあげればポーランド全軍を包囲することも可能ですな」
 ポーランドは一ヶ月とかからず陥落した。


▲ポーランド蹂躙。協定によりポーランド東部はソビエトが占領。

「総統閣下、戦後処理はいかがなさいますか」
「このときのためにつくっておいた守備隊を憲兵つきで駐留させておくがよい。全軍はひきかえしてベルギー・ルクセンブルク・フランス国境に集合させよ。特に足のはやい自動車化歩兵と戦車師団はすべてベルギー前面に集めるのだ」
「了解しました。ところで外交はどうなされますか」
「そうだな、英仏連合軍が敵に回った今、余はスペインを枢軸に迎え入れようと思う。スペインにフランス南方を侵略させると同時に地中海の生命線であるジブラルタルを攻め落とさせよう」
「ではスペインに連絡をとってみます。……閣下、フランコが同盟参加に飛びついてまいりました」
「よろしい。スペインの軍備はどの程度のレベルか」
「陸海ともに第一次大戦レベルですね。かろうじて空軍が使い物になりそうですが、数が少ないようです」
「では全力でジブラルタルを攻略させよ。地中海の制海権をとるのに必要な場所だからな」
 フランコ軍はジブラルタルを攻め落とす。しかし、スペイン海軍は英国海軍に補足されて壊滅。残余の艦船を航空部隊に援護させてジブラルタルに回航させた。
「これではとうぶんスペイン海軍は作戦には投入できませんね」
「もとからスペイン海軍にはなにも期待しておらんよ。それより我が軍の期待の星はどうなっているか」
「お喜びください、このたび46センチ砲装備の超ド級戦艦ビスマルクが竣工してレーダー元帥の艦隊に配属されました。同型艦はあと3隻が計画されており1944年までにはすべて竣工するでしょう。ただし、空母のほうは手間取っております。そこそこの性能をもった空母を設計できるまではいましばらくの時間がかかると思われますが、1942年までには間に合わせてみせます」
「期待しておるぞ。陸軍のほうはどうなっているか」
「機甲師団は順次、三号戦車にグレードアップしてベルギー正面に集結中です」
「では、集結次第、中立国のベルギーとルクセンブルクに宣戦布告せよ。機甲師団はアルデンヌを抜けてパリを目指すのだ」
「オランダは征服されないのですか」
「あの国を征服するとアジアの植民地地帯に亡命政府が自動的にできて連合国に入ることになる。そうなると我が東の友邦、日本が石油不足になるからな」
「はあ」
「考えてもみろ、もし日本が石油問題を解決するためにアメリカ及びイギリスに喧嘩を売るとどうなる?」
「なるほど、自動的に我が国もアメリカと戦うことになりますね。しかし、その日本ですが、さきほどソビエト相手に開戦したもようです」
「なんだと! まだ中国の征服も完了していないのにか」
「どうやらノモンハンの局地戦がそのまま全面戦争に拡大したようです」
「ええい、世話の焼ける国だ。ともかく目の前のフランスを片づけるぞ」
 フランスはアルデンヌの森を抜けたドイツ機甲師団の活躍でたった1週間でパリを占領されあっけなく降伏した。


▲機甲師団がパリを蹂躙。独仏国境線のマジノ要塞線は役立たずに終わる。

 ドイツ軍は占領地にパルチザン対策としてハンガリー・スペイン師団と治安維持用の守備隊を配置し、ユーゴスラヴィア国境に向かう。
「今度の敵はユーゴだ。強い敵ではないからサクッと占領するぞ」
「あの、総統閣下、じつはイタリアがすでにユーゴと開戦しており、我々が部隊をユーゴ国境に集結させているあいだにユーゴを征服しかけております」
「なんだと、あのイタリアがそんなに強いのか」
 イタリアは三流国を相手にした時は強かった。ユーゴはたちまちのうちに攻め取られていく。
「ふむ、これでドイツの南方はとりあえず安全になったな。このぶんならイタリアとは同盟を結ばず、友邦国という扱いで連合国との壁になってもらうか」
「ではギリシャはくれてやりますか」
「そのくらいの役得は当然だろう。イギリスのほうはどうなっているか」
「西部戦線はいまのところイギリスからの戦略爆撃を迎撃戦闘機が出撃して凌いでいるところです。レーダー基地が完成するまで迎撃が後手に回りますが、迎撃部隊を増産しているのでしばらくは問題ないでしょう」
「すると懸案はソビエトだな。予定より1年早いが、1940年3月頃に対ソ戦をはじめるか」
「しかし、1年待てば陸軍の増勢が……」
「敵も今なら戦力不足だ。とりあえず出撃基地としてリトアニアが欲しい。速攻で攻め落とせ」
 ドイツ軍は嵐の勢いでリトアニアを征服した。
 開戦劈頭で敵が前線にへばりつかせている全師団を包囲殲滅するため、中央に足の遅い歩兵師団を、両翼に機甲師団を配置する。

1940年3月3日

 1940年3月、ヒトラーはソビエトに対して一方的に不可侵条約の破棄を通告、そして宣戦布告を告げる。
 ドイツ国民は不可侵条約の破棄にすこぶるお冠で不満度が5%もあがった。不満度があがるとパルチザン活動が活発になったり工場の生産能力が落ちるが、そうしたデメリットを甘受しても開戦するメリットは高かった。
 極東では中国とソビエトの二正面作戦を迫られた日本が満州国全土をソビエトにとられて苦戦しているが、それは裏を返せばソビエトが極東に戦力を集中していることを意味している。
「つまりここで開戦すればソビエトは二正面作戦を戦うことになるということですね。では、折良く三国同盟のイベントが起こっておりますし、同じ敵と戦う仲間として日本と同盟を結んではいかがでしょうか?」
「いや、日本との同盟は一時棚上げにする。奴らは戦争バカだから同盟したとたんにオランダとアメリカに喧嘩をふっかけるぞ」
「なるほど、そうなるとドイツは全世界を敵に回すことになりますね」
「そういうことだ」
「総統閣下、対ソ戦の戦略はどうなさるおつもりですか」
 配置図を前にグーデリアン中将が聞く。
 現在、ドイツ軍は南北に長い戦線の上端と下端に機甲戦力を集中させ、戦線そのものは歩兵師団で支えるという形をとっている。
 ヒトラーはチョビ髭をなでつつ、指揮棒で国境沿いに集結しているソビエト軍のまわりをクルリと円を描いた。それだけで百戦錬磨の将軍たちは納得する。
「機甲師団の突破力と速力をいかし、南北で敵の戦線を突破し、そのまま敵戦線後方を走り抜けて包囲殲滅するわけですな」
「余の戦略は、ソビエト軍の殲滅だ。いかにソビエトが無限の回復力を誇ろうと、殲滅された師団は二度と復活しない」
「そうするとモスクワやレニングラードは戦略目標にされないのですか」
「予定より早く開戦するわけだから、我が軍もまた準備不足なのだ。敵地に長駆進出する兵力はない。そうだろう、ロンメル中将?」
「おっしゃるとおりであります」
 ドイツが三国同盟を棚上げし、イタリアも中立をまもったためアフリカ戦線はまだ存在しない。そのため、ドイツは持てる戦力のすべてを対ソ戦に注ぎ込むことができたが、それでもソビエトは圧倒的に広かった。
「我が軍の戦略は徹頭徹尾、敵戦力の包囲殲滅である。冬がくるまでに100個師団ほども殲滅できれば、モスクワへの道を阻む敵はいなくなるであろうよ」
 そういってヒトラーは笑う。
 そして目論見通り、緒戦でソビエトは最前線の師団をごっそり失った。


▲開戦と同時に戦線北方と南方で包囲作戦にでるドイツ軍

▲包囲され四分五裂するソビエト軍

「総統閣下、敵は新たな戦線を構築中であります」
「よろしい、こちらも戦線を整理し、補給する時間が必要だ」
 そして1ヶ月後、ドイツ軍は再度の包囲殲滅戦を実行する。
「総統閣下、これで50個師団ほどの敵を殲滅したことになります」
「ふふふ、スターリンめ青くなっているな」
「しかし、歩兵師団の補給率低下が著しく、しばらくは戦闘ができません」
「ならば動ける師団を動員して南部の敵を包囲する。戦車師団は動けるのだな?」
「はい」
 機甲師団がセバストポリ周辺になだれこみ、敵を制圧していく。


▲機甲師団のみで手薄なセバストポリ方面の包囲殲滅を実行。

「問題は次の一手だな。そろそろ戦線も限界まで伸びている。対パルチザン対策の守備隊も底をついた。思い切って手薄なバクー方面に兵を動かし産油地帯をおさえたいが、戦線を支える兵力がない」
「総統閣下、敵がこちらの前線に沿って戦力を集中させはじめました」
「ふむ、スターリンも必死だな。戦線を整理し、敵の戦力が集中している中央部を包囲殲滅せよ」
「中央部を突破するとモスクワが目と鼻の先になります」
「余力があればモスクワに突入してもいいが……」
 1940年7月、ついにドイツ軍はソビエト軍の戦線を食い破り、モスクワに攻勢をかけた。突出した3個機甲師団による攻撃はしかし、籠城するソビエト軍によって跳ね返された。


▲要塞化されたモスクワは硬い。

「さすがにそううまくはいかないようだな」
「戦力が不足しております。あのとき6個機甲師団を追加できていればモスクワ占領は成功したでしょう」
「グーデリアン将軍、ないものねだりはよくないな。それに失敗したものにいつまでもこだわるのもよくない。このまま戦線を整理しつつ、レニングラード方面に攻勢をかける」
「総統閣下、なぜレニングラードなのですか」
「地図をよくみろ。陸路でレニングラードにいくのは時間がかかるが、海路でいけばものの数日の距離だ」
「つまり戦艦の艦砲を使って強襲上陸をかけるわけですね」
「ちょうど後方で編成中の機甲師団がある。あれを使おう」
 戦線の整理と残敵の掃討を行いつつ8月、ついに46センチ砲戦艦の援護のもと機甲師団がレニングラードに無血上陸する。
「総統閣下の戦略どおり、スターリンは深刻な兵力不足になっているようです。なにしろレニングラードというソビエト第2の重要拠点の防備すらままならないのですから」
「よろしい。戦線を整理したおかげで40個師団ほどが次の攻勢に使うことができるようになる。これでどこを叩くか……。グーデリアン将軍の意見は」
「はい、まずはレニングラードへの陸路をつくり、この方面の敵を撃破して不敗の体勢をつくるべきかと存じます」
「ロンメル将軍の意見は」
「冬が来る前にモスクワを攻略します」
「どちらの意見も一長一短ある。だが、ここは基本に忠実に敵兵力の包囲殲滅を優先したい。敵はレニングラードとモスクワのどちらに集結しておるか」
「モスクワ正面に敵が集結しております」
「よし、この敵をたたき、モスクワをとるぞ」
 ヒトラーは決断を下した。各戦線から抽出された40個師団もの大軍がモスクワ前面に集結していたソビエト軍を包囲し、一気に殲滅。その余勢でモスクワを攻略。部隊の一部はそのままレニングラード方面の敵包囲に向かい、また一部は南方の秩序の乱れた敵におそいかかった。


▲1940年9月、モスクワ陥落。

「敵はスターリングラードを新しい首都と定めてその前面に戦線をはりました」
「敵兵力の詳細は?」
「機甲兵力はほとんどなく、民兵が主体です」
「それならレニングラード方面の部隊を待つまでもない。平押しに押してシベリアまで突進せよ」
 ソビエトが弱体化したとたん、周辺諸国が次々にソビエトに宣戦布告をする。
「スターリングラードが陥落しました! 敵はもう組織的な抵抗力はないものと思われます。これより残敵掃討作戦に入ることを進言します」
「許可する。ときに連合軍の動きはどうなっているかね」
「それが総統閣下、ペルシャが連合軍によって占領されました」
「ふむ、バクーの油田狙いだな。同盟国軍の部隊で壁をつくり、レニングラード方面から南下させているドイツ軍の到着までもたせるんだ」
 ドイツ軍がソビエトの残敵掃討作戦を続けているうちにとうとうスターリンが講和を申し出てきた。


▲この後、スターリンは処刑されたのかソビエトのリーダーが一新する

 ヒトラーは沸き立つ司令部の面々と祝杯をあげたあと、次はイギリスを叩くと宣言した。
「それですが」
 とロンメル中将が地図をひろげる。
「連合軍に併合されたペルシャを侵攻路にすれば中東・アフリカ方面、あるいはインド方面になだれ込むことが可能です」
「レーダー提督、海軍のほうはどうなっておるか」
「空母建造のほうはあと半年はかかります」
「そうか、ではインド方面とアフリカ方面に一気になだれ込み、イギリスの大事な資源地帯を奪うことにしようではないか」
「ハイル・ヒトラー!」
 ドイツ軍の士気は最大限に盛り上がった。
 対ソ戦で鍛えられた部隊が狭い回廊を抜けてペルシャ方面の英軍を各個撃破していく。たちまちのうちにペルシャとイラクが陥落し、ついに1942年4月、スエズ・アレキサンドリアまで占領された。
 だが、そこへ驚天動地の事実が沸き上がる。
「なんだと、日本がアメリカ・オランダ・イギリスに宣戦布告しただと? 中国の併合もすんでいないのに、連中は何を考えているのだ」
「我が国はいかがいたしましょう」
「どうもこうもない。幸いまだ同盟は結んでいないのだから参戦する義務はない」
「閣下、オランダが連合軍に参加して我が国に宣戦布告してきました」
「一気に揉みつぶせ」
 イギリス上陸用にリザーブされていた30個機甲師団に包囲されたオランダは開戦3日で本国を喪失した。
「よし、次はイギリス本土上陸作戦だ!」
 調子にのるドイツ軍だったが、そこに冷酷な事実が待ち受けていた。
「総統閣下、石油がありません」
「どういうことだ。バクーの油田が手に入ったはずではないか」
「機械化師団が急激に増えたこと、常に部隊が奔走していること、今まで我々に石油を供給してくれていた各国が日本の対米参戦を機に急に交易を断ってきたためです」
「では、イギリス本土上陸作戦はどうなる」
「おそらく上陸直後に燃料切れになる最悪のパターンかと思います」
「くっ、イタリアを枢軸同盟に迎え入れろ。アフリカはイタリアにくれてやる。グーデリアン大将、アフリカ軍の半分をソビエト国境に貼りつけろ」
「では、戦線の拡大は」
「石油がなくてはなにもできん」


▲ここまでのドイツの占領地集計。

「閣下、ベネズエラが石油を大量に持っておりました。交易を申し込んだところ、かなりよい条件で手に入れることができました」
「うむ、備蓄はどうなっている」
「難しいところですが、大作戦を決行しなければ徐々に増えていくかと思われます」
「そうか、ではイギリス本土上陸作戦を決行する。目標はドーバー。ケーニヒスベルグの全艦隊に24個師団の機械化部隊を載せて出発させろ。ゲーリングの航空艦隊にはドーバー近郊のイギリス軍を叩かせ、救援に迎えないように釘付けにさせておけ」
「ちょっと待ってください、総統閣下!」
「どうしたレーダー提督、海軍は空母も戦艦も就役して準備は万端なんだろう?」
「それはそうですが、さきほど大作戦を決行しなければ備蓄ができると……」
「うむ、それがどうかしたかね」
「イギリス上陸作戦は大作戦です。石油の備蓄が底をついてしまいます」
「レーダー提督、君はバカかね? 石油は使うためにあるのであって、備蓄するためにあるわけじゃない。この理屈がわかるかね?」
「わかります。また、インドとアフリカに圧迫を受けたイギリスが本土の兵力の過半を植民地に回して手薄になっていることもわかりますが、危険です! 失敗したら全土で我が軍の行動がストップしてしまいます」
「提督、すでに賽子は振られてしまったんだ。石油切れの危険があろうといまここで英国を落とす!」
 そして周囲の反対を押し切り、英国上陸作戦が始まった。
 ドイツ海軍はこのとき、第1から第3までの海上艦隊を有していた。そのうち第1は空母と戦艦、輸送艦を集中させた完全な戦闘上陸艦隊で、第2は重巡と駆逐艦、輸送艦で構成された上陸師団警護艦隊、そして第3艦隊は旧式艦で構成された囮艦隊だった。
 囮の第3艦隊が優勢なイギリス艦隊主力を北方におびき寄せているあいだに第1及び第2艦隊がドーバーに強襲上陸をかけるのがこの作戦のカラクリだった。
「閣下、上陸成功です!」


▲1942年6月20日、ドーバー上陸。

「ただちにイギリス本土征服作戦を発動せよ。グズグズするな!」
「閣下、もうひとつご報告があります。スカパフロー沖で囮役の第3艦隊がさきほど全滅いたしました」
 ヒトラーをはじめ司令部にいた全員が瞑目する。
 そして1週間後、上陸したドイツ戦車部隊の前にイギリス本土はあっさり陥落し、チャーチルはインドに亡命政府をつくった。
「総統閣下、これでソビエトに続き英国に対しても我が国の勝利が確定しました、おめでとうございます!」
「ありがとう、これもドイツ陸海空軍のがんばりのおかげだ。余もドイツ国民も皆に感謝しておる」
「ハイル・ヒトラー!」
「さらに総統閣下、嬉しい知らせがあります。ロンドンに莫大な量の石油が備蓄されておりました! これで我が軍はあと10年は石油の備蓄を気にせず戦えます」
「よし、アフリカとインドの方面軍に攻勢を命じろ。チャーチルの息の根を止めるのと同時に世界をゲルマン民族のものにするのだ!」

投稿者 teitoku : 14:48 | コメント (4) | トラックバック

2005年03月26日

ポーランド1936 嵐の東部戦線

*これはHearts of Iron2というゲームをプレイした読み物風の記録です。ちなみにHearts of Iron2は日本では発売禁止になったゲームなので、英語版でのプレイになります。
*読み物として面白くするため、実際のゲームにいくらかの脚色を加えていることをあらかじめお断りします。それではお楽しみください。


 1936年1月、ポーランドの首都ワルシャワ。
 私の名前は提督。日系ポーランド人にして、このたび第2次大戦前夜のポーランドを任されてしまった大統領だ。
 しかし困った。
 我が祖国ポーランドは西にドイツ帝国、東にソビエト連邦という巨大な戦争狂国家に挟まれ、史実では第2次大戦直後に両国によって分割占領されるという悲劇を味わっている。
 もちろん私が大統領である以上、そんな悲劇を国民に味あわせるわけにはいかない。なんとか生き残って見せよう。
 しかし、なんとかするといっても我が祖国は第1次大戦後に建国された新興国家に過ぎず、建国以来一貫して軍事よりも民事を優先させてきた文化国家なのだ。
 そのため、軍事力は限りなく弱い。というか独立当時から装備をいっさい更新しておらず主力は戦車ではなく騎兵という第1次大戦レベルの装備だ。とてもドイツやソビエトの怒濤の攻撃を跳ね返す力はない。

●ポーランド1936周辺地図
 中央の黄色い国がポーランド
 左と上の灰色の国がドイツ帝国
 右の赤い国がソビエト連邦
 下の緑色の国がチェコスロバキア

「まず、どのようにいたしましょうか」
 そういったのは私の秘書のポリーニャさんだ。
 ポリーニャさんは我がポーランドの化身のように美しい。巨乳でメガネをかけていて有能で、という秘書の三大必須能力を備えている。
「その、なんだ、どうするといってもだな……」
 私は居並ぶ閣僚や三軍の長を見る。
 みんな平和ボケした顔でやる気がなさそうだが、更迭すると支持率が下がるのでそのまま留任させたメンツだ。
「とりあえず時間を稼いでそれなりの軍備を整えるしかあるまい」
「どうやって時間を稼ぐのですか?」
「まず前門の虎と後門の狼にツケ届けをして心証をよくする」
「狼がドイツ、虎がソビエトですね」
「そうだ。しかるのちに、ソビエトの産出する石油や貴金属と我が国の資材で貿易し、その石油や貴金属をネタにドイツと貿易する」
「いわゆる三角貿易ですね。しかし、それで狼や虎が見逃してくれるでしょうか」
「大丈夫だろう。貿易を続けている間は無理に攻撃してくる理由はないし、まだ両国とも軍備を整備している最中だ」
「たしか、史実では1939年11月、ドイツとソビエトは共同で我が国になだれ込んできましたね」
「そうだ。そのとき我が国はイギリスと同盟していた」
「はい、我が国は大統領制であり、議会政治のイギリスと政体が似ていますのでその縁で。さらにいえば我が国が建国できたのもイギリスのおかげですから」
「その通りだ。だが、私は恩人のイギリスと同盟する道は選ばず、自由と民主主義を犠牲にしてドイツ枢軸に入って生き残るつもりだ。もちろん今すぐは無理だからしばらく貿易をして独ソ両国のご機嫌をとる」
「しかし、ドイツと同盟する道が本当に賢明なのでしょうか? 史実ではドイツは米英ソの連合軍に滅ぼされています」
「必ずドイツが負けるとは限らないし、やばくなったら米英に寝返ってもいい」
「では、最初からドイツを滅ぼす予定のソビエトと同盟したらいかがでしょう?」
「共産主義者は条約破りで有名だな。同盟したからポーランドの安全が保証されるとは限らない」
「なるほど、閣下のお考えがわかりましたぞ!」
 陸軍大臣のエドワードが甲高い声でいった。
「ドイツと同盟し、時間を稼いでいるあいだに我が陸軍を育てるのですな。さすがは閣下だ!」
「いや、そんな金はない。当面、軍事にはビタ一文ださん。我が国の生産力は貿易用の資材をつくるだけで手一杯だ」
「しかし、陸軍の装備は旧式で国境警備も不安なほどですぞ」
「うむ。ほとんどの部隊が第1次大戦の装備だからな」
「では戦車師団の新設とはいいませんが、せめて装備の更新だけでも許可願いたい」
「ダメ。工場を新設したり、新戦車開発や工場の効率をあげる研究はするが、そのほかに使う金はない。いまポーランドにある旧式装備の部隊ですら国庫には負担なのにこれ以上軍事に金を使えるか。いいか、諸君。我が国は当面、ケチケチ作戦でいく」

 こうしてポーランドの生き残り大作戦が始まった。
 独ソとの三角貿易はスムーズにすすみ、国富が溜まりはじめた1937年の7月、ポーランドは稼いだ金を外交に使い、ドイツの世論を動かして枢軸同盟に加入することができた。といっても、この段階でほかに枢軸に入っている国はドイツとポーランドだけ。
「おめでとうございます。これで前門の虎に集中できますね。では、軍団をさっそくソビエト国境に貼りつけましょうか」
「いや、時期的にもうすぐドイツのチェコ進駐がはじまるはずだ。我が国も枢軸国として参加して分け前にあずかり……もとい同盟の義理を果たす必要がある。全軍をチェコ国境へ向けろ」
「自国が生き残るために弱小国を占領するとは、ずいぶん鬼畜な戦略ですね」
「なんとでもいえ。ポーランドは資源も工業力もない上に列強に挟まれているから、鬼畜なことをしないと生き残ることすらできないんだ」
「しかし、全軍をチェコ国境に向けて、ソビエトは黙っていてくれるのでしょうか?」
「史実をみると、当面ソビエトがなだれ込んでくる余裕はないはずだ」
「もう一つ、我が軍の装備は旧式です。チェコに勝てるのでしょうか?」
「戦車師団の新設は無理だが、歩兵師団の装備更新くらいは許可しよう」
「ありがとうございます閣下!」
 陸軍大臣が大喜びで官邸を去る。秘書のポリーニャが心配そうに口を挟んだ。
「しかし、我々は第2次大戦最弱とうたわれたポーランド軍です。本当に大丈夫でしょうか?」
「うむ、我が国最初のバクチだな」

 それから1年後の1938年7月。
 ポーランド軍の装備更新は遅々として進まない。そんななか、突如としてドイツがオーストリアに攻め込んだ。
「あ~あ、あんなところに攻め込んでも分け前がもらえないのに~」
「そういう問題ですか。しかし、さすがはドイツ軍、我が国が配備すらしていない戦車を駆使してあっという間にオーストリアを滅ぼしました」
「ううむ、電撃戦というやつだな。このまま装備が更新されるのを待っていたらチェコを丸ごととられてしまう。そうなると我が国は貧乏なままだ。そうなる前にチェコに宣戦布告をだそう」
「しかし、ドイツは同盟国ですから一緒に攻め込んできます。独り占めにできませんが、よろしいのですか?」
「かまわん。どうせ我が国は単体ではチェコにも劣るのだ。首都攻略はドイツに任せて我々は西部の工場都市を狙おう。第1目標Bratislava州、第2目標Holaburun州、全軍すすめ!」
 大統領の指示のもと、ポーランドのほぼ全軍45個師団が一斉にチェコ領東方五州に侵入する。
 しかし、敵は合計12個師団で果敢に反撃。旧装備のポーランド軍は手こずりながらも強引に数で押しつぶしていく。こうして、なんとか第1目標は確保したものの、補給切れでモタモタしているあいだに第2目標はドイツ軍が奪ってしまった。
「しかし、危なかった。2倍の数で攻めても攻めきれないとはな。相手が軽装備の歩兵師団で良かった」
「まったくです。これでは戦車を装備した連中がでてきたらどうなることか。閣下、いまこそ戦車師団の生産を願います」
「陸軍大臣、それは却下だといっているだろう。今は損害の補充と歩兵師団の装備更新で我が国の国力は手一杯なんだ。それよりこのままバクチを続けるぞ。損害から回復したら次はハンガリーに宣戦布告だ」
「矢継ぎ早に戦争をすると国民の労働意欲が落ちて生産力が落ちますが、よろしいのですか?」
「ソビエトがおとなしくしている間に少しでも多く土地と工場と資源を確保したい。そのためなら国民にはいくらか泣いてもらおう」
「まるで戦国大名の国盗りですね」
「たしかにそうだな。しかし、我がポーランドは戦車も戦闘機もなく騎馬と歩兵だけの軍隊だから、戦国時代並かもしれないぞ。今川と織田に囲まれた徳川の気分だな。もっとも我が国が徳川と違って人材がほとんどいないわけだが」
「泣けてきますね。そういえば我が国は空軍と海軍の開発は無視していますが、よろしいのですか?」
「よくはないが、どこをひっくりかえしても余分な生産力はない」
「結局、それなんですね」
「みんな貧乏が悪い」
 大統領はいいきった。

 1938年。
 損害を補充したポーランドはハンガリー国境に集結した。
「諸君、いきなりだが予定を変更する」
「は?」
「我々はこれよりルーマニアを占領する」
「なぜでしょうか」
「それはだな、我が軍の装備を強化しはじめたとたんに油の消費が増えたからだ。このままではケチケチ作戦で備蓄してきた油が底をついてしまう」
「なるほど、ルーマニアには油田があるからそこを占領してしのごうということですか。まったく山賊みたいな戦略ですね」
「なんとでもいえ」
 軍団の再配備を終え、9月には対ルーマニア戦が始まった。敵は若干の戦車師団を持っていたが、ポーランドの人海戦術に呑まれていく。
「大統領閣下、ルーマニアを完全に併合しました。しかし、各地でパルチザンが横行しており、治安維持のために引き続き部隊をルーマニアに駐留させなければなりません。また、歩兵師団の消耗分を徴兵したため国力がかなり減りました。当分は大規模侵攻が無理です」
「わかった。生産力を民需に大目に回して国民の不満を緩和し、しばらくは地道にパルチザンを掃滅しよう」

●ポーランド1938周辺地図
 チェコスロバキアの一部とルーマニア全土をポーランドが占領した

「閣下!」
「なんだね、陸軍大臣」
「今度こそ戦車の配備をお願いします」
「君もしつこいね。しかし、いつまでも歩兵主体でいくわけにもいかないな。わかった、戦車師団を創設しよう。戦車を10個師団、自動車化歩兵10個師団を新設してポーランド全軍で70個師団体制にする」
「しかし、それだけ新設しますと補給が追いつかないのではないでしょうか」
「そうだな、あとでハンガリーとユーゴスラヴィアも併合するか」
「それならなんとかなりそうですが、70個師団でどこを攻めるのですか?」
「なにをいってるんだ、もちろん最終目標はソビエトだ」
 閣僚達が一斉に腰を抜かす。
「それは……いくら70個師団を揃えても無理では……。史実では倍以上の軍勢を持っていたドイツ軍ですら敗北したんですよ」
「もちろんポーランド単独なら無理だ。だが、ドイツにも協力して貰えばなんとかなるんじゃないかな。いまのところドイツは英米と戦争をはじめていないから、余力があるはずだ」
「しかし我々はポーランドですよ! 今まで生き残ってこれたのは独ソにおべっかを使ったからじゃないですか」
「たしかに」
 閣僚達は沈痛な顔をする。すっかり負け犬が板についている。
「うるさい。なんといわれても対ソ戦をするぞ!」
「閣下、あなたはポーランドを滅亡させるおつもりか」
「黙れ。これは決定事項だ。滅亡したくなければ、敵を滅ぼせ」
 こうしてポーランドの狂気の軍拡がはじまった。
 次々に近隣国を併合し、生産力を高めて軍団の装備を更新し機械化師団を新設する。
 そして貧乏国ながらなんとか20個師団の増設に成功し、全軍をソビエト国境にはりつけた。
「よし、まずはソビエトに対し旧領回復交渉を行う。不法に占拠したポーランド東部諸州を返還しろとスターリンにいってやれ。要求を呑まないときは開戦する」
 戦争準備の整っていないソビエトはやむなく交渉を受け入れ、戦わずしてポーランド軍は一歩前進した。これでお膳立ては整った。

●ポーランド1943周辺地図
 さらに南方の国を占領し、ソビエト国境に集結したポーランド軍

「諸君、これよりラグナロック作戦を発動する。第1次攻略目標はラトヴィア。この国を占領してドイツ軍団のソビエト進撃路として確保する。皇国の荒廃この一戦にあり、各員の一層の奮励努力を期待する」
「大統領、それ極東の国の決まり文句ですよ」
「一度いってみたかったんだ」
 1944年末。
 ラトヴィア攻略作戦が始まった。ラトヴィアと同盟していたエストニアが参戦するがドイツ=ポーランド同盟の敵ではない。ほとんど瞬殺され全土が蹂躙された。
「よし、ラトヴィア攻略部隊をソビエト国境に戻せ。それが終わったらソビエトに宣戦布告する!」
「閣下、申し上げにくいことなのですが」
「なんだ、いってみろ陸軍大臣」
「じつは先ほど陸軍参謀本部で机上演習をしてみたところ、どう計算しても圧倒的に兵力不足ということがわかりました。このままですと、戦線が突破され、戦略予備のない我が軍は包囲殲滅されてしまいます」
「たしかに兵力の厚みは違うが国境沿いの正面戦力はほとんど同じだぞ。持久戦もダメなのか」
「じつは、ソビエト師団1個に対し我が軍は3個師団でやっと同等の戦闘力なのです」
「そんなにポーランド軍は弱いのか」
 大統領は絶句した。
「陸軍としましては作戦の延期を勧告します」
「むぅ、兵力をさらに追加する。それに東部国境沿いの要所に要塞を建造しろ。それまで作戦を延期だ」
 そして時は流れて1947年6月。
「よし、今度こそ準備は整った。第2次攻略作戦発動!」
 ソビエトとポーランド=ドイツ枢軸は開戦した。
 ポーランドはとにかく東部国境沿いに全兵力を集めて敵の足止めをする。そのあいだに北方からドイツ軍が侵攻し、モスクワを攻め落としてくれるのを待つ作戦だった。
 モスクワが落ち、さらにドイツ軍が東進すれば、東部戦線は巨大な包囲網と化す。あとは補給切れで動けなくなった国境の敵を駆逐するだけだ。それぐらいならポーランド軍にもできる。
「我ながら完璧な作戦じゃないか。なあ、陸軍大臣」
「さすがは大統領閣下です」
 そのとき秘書のポリーニャさんが血相をかえて官邸にやってきた。
「大変です! ソビエト軍が東部戦線を突破しました!」
 ソビエト軍は要塞線の隙間に機甲師団を波状攻撃でぶつけてきた。要塞線のあいだには通常より多くのポーランド師団がはりつけてあったが、これがあっけなく突破されたらしい。
「敵は突破したところから次々に新手の師団を侵入させてきます。はやく手を打たないと要塞線が包囲されますぞ!」
「そういわれても予備兵力はない」
「では、全軍後退しますか」
「要塞を放棄して、戦線を保てるか?」
「おそらく無理でしょう。しかしこのままでは各個に包囲殲滅されるだけです」
「いっそ首都周辺に全軍を集めて壁にするか。持久しているあいだにドイツ軍がモスクワを落としてくれればなんとかなるだろう」
「それが一番確実ですか」
 しかし、ポーランド軍の後退はすぐに潰走に変わった。
 よく考えてみればポーランド軍はほとんどが歩兵師団で移動力は低い。あっというまに各所で戦線は分断され包囲殲滅されていく。
「ドイツはどうなっている、ドイツは」
「モスクワを包囲しましたが、籠城されててこずっている模様です。それより大統領閣下、我が国の首都の心配もしてください。すでにソビエトの機甲師団が包囲にかかっています」

●ポーランド1947周辺地図
 国土を分断され、軍団も包囲された末期状態

「首都防衛用に呼び戻した師団はどうした!」
「ほとんどが各地で包囲されています。首都防衛に間に合った師団は全軍の十分の一です」
「大統領、ここまでですね」
 秘書のポリーニャさんがワルサーを大統領のこめかみに当てた。
「君はいったい……!」
「大統領、あなたはポーランドを生き残らせるためといって多くのポーランド人を死地に追いやった。あなたの無能、死をもって償ってもらいます」
 銃声が大統領官邸にこだました。

end

投稿者 teitoku : 19:04 | トラックバック