第11話;「イア・イア・ハスタァ」


 桃色の秘肉がおしひろげられ、硬く太い男性器が柔らかな湿った肉を押し分けていく。愛する人の肉体を受け入れて金髪の少女は幸福のうめき声をあげた。
 少女はまだ十歳にもなっていない。いや、少女というよりは幼女というべきだろうか。小さな身体全体を使って男性器を包み込み、懸命に奉仕している。彼女がまたがっているのは実の兄だった。
 幼女の秘肉からとめどない愛液が漏れている。顔は真っ赤に上気し、慎み深く閉じられた口から抑えようのないあえぎ声が漏れる。
 その一方で妹を犯している兄は微動だにしない。結跏趺坐の姿勢を守り、まだ幼い妹が快楽をむさぼるのを憂愁を含んだ表情で見つめている。
「アウッ!」
 幼女の手足の指が突っ張った。彼女の幼い秘所から大量の精液が溢れだしてくる。荒い息をつき余韻を味わってから、幼女は兄の上から離れる。そして、確認するように自らの割れ目に手をやり、あふれでた白濁する液体をすくいとると美味しそうに舐めた。
「フフフッ……」
 そして兄の萎えた男性器を口に含む。ピチャピチャと子猫が皿から牛乳を舐めるような音をたて、どこでおぼえたのか絶妙なテクニックを使い、たちまちのうちに元通りにさせてしまう。
 幼女は自分の作品を見つめる陶芸家のようなまなざしで兄の男性器を点検すると、今度はいかにも慣れた手つきで天にも昇らんばかりに屹立した男性器を今度はお尻の穴に導いた。
 巨大な肉棒に貫かれた幼女はガチガチと歯の根を震わせた。明らかにサイズオーバーである。快感は感じず、苦痛のみが幼女を苦しめていた。
 大きく見開かれた目からは涙が流れ落ちるが、腰はそれとは無関係に動く。彼女の口元には奇妙な自己満足の表情があった。
「嬉しい……嬉しい……」
 それだけを呪文のように唱えつつ兄の快楽に奉仕し続けた。
 尻の穴からも白濁した液体が漏れ、ようやく幼女は再び男性器を綺麗に舐め、汚れをぬぐい取ると満足げに兄の側にはべった。兄は最後まで無言だったが、幼女はそれでも満足だった。
 二人は南の退魔師一族の族長とその妹だった。
 兄の名をニコラス瑞城、妹はエイリア瑞城という。二人はかつて南海の島に赴き、そこに封印されていた邪神と戦い、相打ちになった南の退魔師一族の末裔である。
 邪神との戦いで死に絶えたはずの彼らがこの南海の孤島の神殿でどうやって生きながらえているのか。そして敵であるはずの邪神の神官になり果てたのはどうしてなのか。最初の疑問に答えるのには、彼らの背後に存在するマーシュ海運という組織の存在を抜きにしては語れない。
 アメリカの東海岸に本拠を置くマーシュ海運は世界の海運業を影から牛耳っている巨大な海運組織である。そして第一次/第二次世界大戦という風雲急のさなかで急成長を果たした組織にありがちなことに、マーシュ海運は後ろ暗い噂の多い組織としても知られていた。
 いわくライバル会社の船は次々に怪しげな方法で沈んでいくとか、海賊まがいの仕事まで請け負っているとか、ひどいものになると創業者のマーシュ一族は人間ですらないという噂まであった。
 一つだけはっきりしているのは、海底神殿の周囲では異常なほどに海難事故が多発するということだった。そして、この海域においてマーシュ海運の船だけが海難事件に遭遇しないというのもまた不可解な事実に分類できる。
 また、それらの海難事件において生存者が救出されることは稀であり、たまさかに生存者が救出されてもカエル顔の半魚人が襲撃してきたとか、小山ほどもある触手生物が船を海に引き込んだとか明らかに生存者の精神が衰弱していることを示す証言しか得られず、当局はただ手をこまねいているしかなかった。
 過去に海底神殿のある島で邪神と闘い、全滅状態にまで追い込まれた瑞城一族が再び勢いを盛り返してきたのもこのマーシュ海運の尽力があったためである。
 海底神殿を維持する消耗品や食料はもちろん、一族を増やすために必要な母親や生け贄までマーシュ海運はなにもかも揃えてしまった。不思議なことに海底神殿の周囲で客船や貨物船が海難事故に遭う時期と、海底神殿に補給が届けられる時期は奇妙に一致していた。
「ジョセフ・マーシュさん」
 兄妹の痴態を眺めていたタキシードの男がゆっくりとニコラスの前にすすみでる。どこかカエルに似た顔立ちの男だった。この男こそマーシュ海運のボスである。
「あと一週間で星は太古より定められた運命の位置につきます。準備はいかがですか」
 ニコラスは満ち足りた表情の妹を膝に乗せ、もう一度犯し始める。ジョセフ・マーシュはピクリとも表情を変えない。
「総ては御身の計画通りに。闇の血を持つモノどもが数十万の単位で互いに殺し合い、我らが神の復活に必要な条件をすぐにも満たしてくれることでしょう。しかし、人間とはなんとも単純なものですな。挑発されればすぐにカッとなり、その意味すら考えようとはしない」
「我らが神の復活のためには好都合なことです。私の先祖も己が内に眠る邪神の血に気づかず、我らが神を封印しようとしたのですから」
 エイリアが甘い吐息を漏らして兄の首筋にしがみつく。その股間が肉のこすれるヌプヌプという淫靡な音をたてていた。
「しかし、ギリギリになって気がついた。いや、気がつかされたというべきなのか。神を守る我々を皆殺しにしていったあなた方一族は真の意味で闇の血に目覚めた。皮肉なものでございます」
「イア・クトゥルー……我らこそ神の神官だったのだと」
 エイリアの背筋がピンと伸び、熱い液体が再び妹の胎内に放出された。

 廃墟になった東京。
 六つの影が固まって走っている。死天衆の四人と朧花、そしてルル・イエーガーだった。ルルはウトウトと微睡んでいる朧花を背負っている。彼女の熱はまだ引かない。
「なあ裕仁、未来を予知できるってどんな気持ちなのかな」
 死天の一人、淳子が同僚に話しかけた。死天に限らず、退魔師には女性が多い。子供を産む力が闇の血と関係しているといわれているが、定かではない。
「さあな。あまりいい気分じゃなかろうよ。東京の壊滅や東の一族の死滅を予知しておきながら何もできないんだからな」
 裕仁がいった。彼は死天唯一の男性退魔師である。文学青年的な外見とは裏腹に鍛え抜いた己が拳で退魔を行う格闘退魔師だ。
「そうかなあ。予知は役に立ってると思うんだけどなあ……」
 淳子は納得しなかった。さかんに首をひねっている。
 死天の主である矢立朧花は予知の能力を使い、南の退魔師が妖魔と退魔師の大規模な流血を狙っているのを知った。
 瑞城の狙いは邪神の復活であり、闇の血を引くものどもが互いに血を流すことで邪神覚醒への供物としようとしているのだった。
 これを知った朧花は退魔師最大の勢力を誇る東の一族を東京攻防戦に参加させなかった。退魔特捜の高橋課長あたりには誤解されているようだが、決して我が身かわいさの決断ではなかったのだ。
「いくら未来が見えても相手は百年以上も前から準備をしてきた連中だぜ。三ヶ月やそこらの準備でかなうわけねえじゃねえか。泥縄だな」
「なんであんたはそう悲観的なのよ!」
「さっき連絡があった。アメリカが東京に百メガトン級の核ミサイルを二発、発射したそうだ。オレたちが消耗戦に巻き込まれなかったから一挙に消しちまおうって作戦だろ」
「そ、それじゃ敵はアメリカの大統領まで……」
「さあな。いくらなんでもそこまでやってるとは思えないが、ブレーンに食い込んでいる可能性はあるね」
 淳子が目を剥いた。
「それじゃ勝ち目なんてないじゃない!」
「まあな」
「あたし、死にたくない!」
「オレだって死にたくないさ。なあ、みんな?」
 二人の会話をじっと聞いていた残りの死天のフェキヤと香澄もうなずいた。フェキヤは女子プロレスラーそっくりの体格だったが、香澄は繊細な印象を与える線の細い女性だった。
「東の退魔師一族最強とうたわれた死天衆がそう簡単に死ぬはずがない。安心しろ」
 フェキヤが力瘤を作って笑ってみせる。
「そうですよ、淳子さん。なんとかなります」
 香澄もなだめるようにいう。
「香澄さまがそうおっしゃるなら……」
「きっと朧花様は核のことも予知されて必要な手を打たれたはずです。ねえ、ルルさん」
 今まで黙って朧花を背負って歩いていたルルが顔をあげた。
「安心していいです。朧花は予知しています」
 死天の顔にホッとした表情が戻る。仮にも死天であるからには、たとえ核が降ろうと生き残る自信くらいはあったが、彼女らと離れ、オトリとしてバケモノどもを攻撃している一族の身の安全を案じていたのである。
 ルルはふと苦しそうな表情を浮かべた。朧花のそばに四六時中いたが、実際には彼女は核のことについてはなにもいわなかった。それは、なにもいわなくても解決するのか、あるいはなにをいっても無駄なのかのどちらかであるだろう。
 ふと、淳子が立ち止まった。
「おい、どうしたんだよ、追いてくぞ!」
「先に行ってて。後で追いつくから」
 振り返ると地平線の彼方に土煙が見えた。少なくとも千匹以上のインスマウスが朧花たちを追跡してきていた。
 東の一族が朧花の脱出を助けるためにオトリになっているが、それに引っかからなかった一団だろう。思えばここまで敵らしい敵に出くわさなかったのが不思議だったのだ。
「カエルの百匹や千匹、あたしの敵じゃないわ。ねえ、そうでしょ?」
 裕仁が口を開けかけてつぐんだ。
 淳子の背中が同行をキッパリと拒否していた。
「行こう!」
 朧花を背負ったルルが立ち上がった。
「でも……」
「早く行きなさいよ! そんなとこでグズグズされていたら邪魔なのよ! アホ!」
「淳子……」
「行きましょう、裕仁。大丈夫、きっと追いついてくるわよ」
 後ろ髪を引かれるように一行は淳子を残して立ち去っていく。
「フフン、さよならはいわないわよ」
 そして淳子は千匹のインスマウスと対峙する。
 すでに彼女の足下には敵の死体が数え切れないほど転がっていた。
「へへ、へ……あたしもようやく年貢の納め時かな……」
 淳子は全身朱にまみれ、武器のワイヤーもあまりに酷使しすぎたため切れ味がひどく鈍くなっていた。
 一匹のインスマウスが淳子の足を掴んだ。
「この!」
 だが、酷使され続けたワイヤーは切れてしまう。
 彼女は力尽き、インスマウスどもに、息絶えるまで犯された。

 片目を失い、右肩を砕かれた高橋課長が野戦救護テントに横たわっている。
 ムスカ教授と夕夜が裏切りの代償として崩壊させた警視庁ビルからようやく這い出してきたところを退魔特捜の面々に救われたのだった。
「具合はどうなんだ、シスター!」
 現場指揮官の音乃が飛び込んでくる。
「あまり良くはありません、音乃隊長。ちゃんとした手術器具のある病院に持っていけばまだ望みはあると思うのですが……」
「お、音乃クン……せ、戦況は……」
「課長! 大丈夫なんですか?!」
「だ、大丈夫だ……そ、それより……」
 傷が痛むのか時々顔をしかめる。モルヒネもさほど効いてはいないようだ。
「……戦況はよくはありません。本部が崩壊して効率的な指揮が受けられないので、各拠点が独自の判断で闘っている状態です。補給の問題もありますが、人員の死傷が致命的に大きくなっているようです。大治さんと冬仔さんが頑張ってくれていますが、もってあと二時間というところです」
「あの二人を呼んでくれ。だ、大事な話がある……核が……ICBMが……東京に……止められるのはあの二人……ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!」
 血を吐いた。折れたあばらが肺に刺さっているのだ。
「課長! 課長! 核って……そんな!」

 南へ向かう朧花たちの足取りが止まった。
「あれは……シュグラン!」
 朧花一行を待ちかまえていたらしい巨大な怪物は身長が大柄なフェキヤよりもさらに頭二つ分ほど大きかった。背中にはコウモリの翼を持ち、触手のようなものが顔の真ん中についていて、皮膚全体はナマズのようにヌルヌルとしていた。見るからに汚らわしい怪物である。
「ここはオレが……」
 裕仁が一歩前に出ようとした。
「どきな!」
 その裕仁をフェキヤが押しのけて前に出る。
「淳子の仇を討とうと熱くなってるお前にはあいつの相手は無理だ。それより朧花様たちと先を急げ」
「クッ!」
「行けっ!」
 フェキヤに叱咤され、ルルたちは走り出す。朧花を捕まえようとシュグランが動き出すが、その足下にフェキヤがタックルをかけて押し倒す。
「あんたのお相手はあたしだよ。そんな不細工な人相じゃ今まで女の子に話しかけて貰えなかったんだろ!」
 シュグランの足をねじり、関節技を決める。フェキヤの得意技は格闘技のサンボに退魔術を組み合わせたものだった。
「ギイイイイイッ!」
 シュグランがいなないた。鞭のようにしなるシュグランの触手はフェキヤの鍛え抜かれた身体に傷を与えることができなかった。
 逆にフェキヤは触手をかいくぐると今度は首の骨を折りにかかる。退魔術を掛け合わせた殺人格闘術にさしものシュグランも苦しそうな表情を見せる。
 だが、首を折るために動きを止めたのがフェキヤの敗因だった。シュグランの触手がフェキヤの身体を押さえつけ、その先端が秘肉を押しのけ胎内に侵入してくる。こうなればフェキヤが敵の首を折るのが早いか、シュグランが目的を達成するのが早いかの勝負である。
 フェキヤの胎内に侵入した触手の先端は子宮を突き破ると内臓を食い荒らしはじめる。いかに鍛えた身体でも内臓だけは鍛えられない。
 結果は相打ちだった。シュグランの首はあらぬ方向に折れ曲がり息絶えたが、フェキヤもまた致命傷を負っていた。
「ヘヘヘッ、熱くなってたのはあたしのほうかねえ」
 フェキヤは血を吐いて倒れた。

 天使の翼をゆっくりと羽ばたかせて冬仔が東京の上空をのんびりと哨戒している。彼女より少し遅れて飛んでいるのは前回の戦闘で倒した忌まわしき狩人を喰らった大治だった。大治は喰らった相手の能力を自分のモノに出来る。いま彼は忌まわしき狩人の姿で空を飛んでいた。忌まわしき狩人は西洋の伝説に出てくる醜悪なドラゴンにどこか似ていた。
『天使に先導され天国への門をくぐるドラゴンかあ。なんかかっこいいよなあ』
『なに呑気なこといってるのよ、大治くん』
 二人の会話は大治が忌まわしき狩人に変身していることもあって上級の退魔師のみが使える念話によるものだった。念話とは相手の心に自分の意識を投射する術だが、早い話がテレパシーのようなものである。
『でも、もうすぐここに核ミサイルが降ってくるんだもんなあ。なんか信じられないよ』
『気を抜いちゃダメよ。100キロトンの核ミサイルってことは広島型原爆の200倍の威力があるって事なんだから』
『そんなのが直撃したらいくら俺でも身がもたねえよなあ。やだなあ、まだ死にたくねえよ』
『大丈夫よ。起爆前に破壊してしまえば爆発はしないから。ICBMは二発、わたしたちが一個ずつ破壊すれば問題はないはずだわ』
『でも失敗したら死んじゃうんだろ。あーあ、こんなことなら朧花と一発ヤッてから死にたかったなあ』
『ずいぶんと命知らずな発言ね。そんなことしたら間違いなくあの娘に殺されるわよ』
『だろうなあ……』
 忌まわしき狩人は妙に人間じみた仕草でため息をつく。
『でも、どうせ死ぬならあいつの手にかかって死にたいなあ』
 冬仔がおかしそうに笑う。
『ずいぶんといれこんでるわねえ。でも、朧花のどこがそんなにいいのかしら?』
『そりゃ……料理は苦手そうだし、性格悪いし、粗暴だし、胸は小さいし、生意気だし、いいとこは全然ないけど、でも好きなんだなあ』
『わかるなー。お姉さんは青少年のそんな健全な恋心がかわいいっ! 応援しちゃうからね♪』
 冬仔が大治を茶化す。
『やめてくださいよ、冬仔さん!』
 グロテスクなドラゴンが照れても少しもかわいくはないのだが、冬仔は楽しそうに笑っていた。
 その時、上空に輝く天が二つ、瞬く。
『大治くん!』
 冬仔と大治は急上昇に移る。資料によるとICBMの弾頭が炸裂するのはちょうど大治たちのいる高度のあたりだった。
『なんとか間に合いそうね』
『そうですね。なんとか死ななくて済みそうですね。でも、これが終わったら高橋課長は朧花の援護に向かえとかいってましたけど、東京はもう守らなくてもいいのかな』
『核が爆発しようがしまいが、東京はもうおしまいだもの。守る価値のある場所がことごとく壊されちゃったわけだし、都民もとっくの昔に疎開するか殺されてるし。だから課長は朧花の企みに全てを賭けることにしたのよ。肝心の彼女が何を企んでるのかは誰も知らないけれどね』
『ふーん。いいかげんだなあ……ッ!』
 突如、頭上のICBMに異変が生じた。それはあり得ない光景だった。ICBMの弾頭部が観音開きに開き、無数の小型弾頭が拡散しながら落下してくるのだ。
『た、多弾頭核ミサイル……そんな……情報じゃ単弾頭ミサイルのはずなのに……』
 二基のICBMはそれぞれ2キロトンの小型核弾頭を50個ずつ投射した。それは天空一杯に広がり、傘上に東京を覆い尽くそうとする。
 忌まわしき狩人が炎を吐き、冬仔の天使の翼が巨大化して核弾頭を薙ぎ払っていく。弾頭が小型化したため炸裂する高度が下がっていたのが幸いした。二人は降下しながら全力で弾頭を迎撃していく。
 だが、どうしても一〇発ほどの弾頭が網から漏れてしまった。これだけの核でも東京を死滅させるには十分な量である。
『間に合わなかった……』
 核が炸裂すればすぐ上空にいる大治たちも無事にはすまない。超高熱と放射能の嵐の前では、どんなに闇の血を色濃く受け継いでいても意味がない。
『ダメェェェッ!』
 いきなり冬仔が叫んだ。
 彼女の身体が膨らみ、空気が歪んだ。冬仔が輝いている。
『……イア・イア・ハスタァ・ハスタァ・クフアヤク・ブルグトム・ブルグトラグルン……』
 冬仔が呪文の詠唱を始める。大治が聞いたこともない忌まわしい呪文だった。
 突如、突風が吹き荒れてきた。晴天だった空が一転して黒雲におおわれる。禍々しい波動が身体を揺さぶっている。
 高度1000フィート。
 核弾頭の高度計が規定の高度を確認し、起爆装置が作動を始める。信管は起爆コマンドに反応し、コンマ三秒で高性能火薬による爆縮が始まる。なにものをも焼き尽くす火球が広がり……
 突如、空間が歪んだ。風が核弾頭を周囲の次元ごと叩き斬った。
 大治は我が目を疑う。大空に華開いばかりの核の炎が一つ残らずあとかたもなく消えてしまったのだ。

 仲間を失いつつ南へとひた奔る朧花一行の前に最後の刺客があらわれた。
 刺客は妖魔でもバケモノでもなく、かわいらしい金髪の幼女エイリアだった。だが、身なりは幼女でもその身体から無言で放射される妖気は凶悪なまでの圧力を持っていた。
 その圧倒的な妖気の前に朧花を背負ったルルと死天の香澄、裕仁の足が止まる。まるで蛇に睨まれたカエル状態だった。
「あら、いやですわ。朧花お姉さまはのんびりお昼寝中なんて」
 鈴の転がるような朗らかな声が幼女の口から漏れた。ルルをはじめとする一行は黙ったまま、すくんでいる。
「フフフッ、お兄さまがね、邪神復活の生け贄にするから朧花お姉さまを連れてこいっていってるの。悪いけれど、あなたたちその女性を渡してくださらないかしら」
 エイリアが一歩、前に出た。気圧されるようにルルたちは一歩、退がる。
「抵抗するの? なら殺してあげる。闇の血が流れれば流れるほど、お兄さまは満足するものね」
 エイリアの周囲の空気がパリパリと澄んだ音をたてはじめる。空気中の水分が氷結して一本の槍があらわれる。
「誰からこ・ろ・そ?」
 氷の槍が朧花を守るように立っていた裕仁の腹に直撃する。
「ぐほっ!」
 槍の先端は背中まで貫いていた。大量の血が裕仁の身体から流れ出る。だが、血は不思議なことに足下に溜まるのではなく、霧状の粒子となって空気中に拡散した。
「極真退魔術最奥義・霧血魔!」
 血塊を吐きながら裕仁がニヤッと微笑する。血の霧は完全に視界を染め、人の気配すら絶ってしまう。
「しまった……」
 エイリアがあわてて裕仁を切り刻み、ようやくその息の根を止めたときにはルルと朧花、そして香澄の姿はなかった。
「こいつのせいで……」
 エイリアは八つ裂きになった冷たい骸を蹴った。

 警視庁攻防戦はついに最終防衛線を巡る戦いに突入した。
 退魔特捜側は廃墟と化した警視庁ビルに立て籠もり、飽きることなく波状攻撃をかけてくる妖魔軍団を撃退し続けていた。
 この最終防衛ラインには本来の戦力の約二割が詰めている。各陣地に詰めていた残りの退魔師たちはすでに殉職したか、妖魔につかまって陵辱されている。
 だが、ここまで撤退できたものも大半は負傷者であり、高橋課長ら重傷者といっしょに奥の部屋に寝かされている。実質的な戦力といえば音乃の率いる十名ほどの疲労困憊した退魔師たちだけだった。弾薬もなければお札も魔力も底をついている。そして敵の数はいっこうに減ろうとしない。状況は絶望的だった。
 すでに音乃たちは気力だけで闘っていた。だが、そんな状態は長くは続かない。妖魔軍団の何十度目かの突撃によって最終防衛線の一角が崩れた。食屍鬼とインスマウスで構成された妖魔の混成軍団は防衛戦のほころびから、足腰立たないほどに疲れ切っている音乃の副官、紫暮を引きずり出す。疲れ切っている音乃たちは防衛戦に寄りかかって立っているのがやっとで彼女を救いだすことなどおよびもつかない。
 そんな退魔特捜の窮状を嘲笑うかのように妖魔軍団は攻撃の手を休めると、音乃たちの見えるところに紫暮を引きずり出し、よってたかって彼女を輪姦しはじめた。
 紫暮の胸に顔に尻に、そして全身に汚濁した液体がかけられ、彼女のアソコや口、アヌスには巨大なヌメヌメと光る肉棒が絶え間なく挿入された。
 戦に敗れた退魔師の末路は哀れである。そしてそんな光景を見せつけられている音乃たちもまた哀れだった。それでも彼女たちは闘わなければならない。
 不意に妖魔軍団の紫暮を陵辱する動きが止まった。
 何事かと音乃たちも周りを見回す。
 甲高く澄んだラッパの音が聞こえた。その音と共に戦場に突入してきたのは数千人の東の一族である。
 おそらく古今東西の戦史を見てもこれだけの退魔師が集中して使用された例はないだろう。その破壊力は驚異的というしかなかった。いかに妖魔軍団が数十万の規模を誇ろうとも警視庁攻防戦に参加していた疲労は隠せない。一方、東の一族は開戦からずっと戦力の温存につとめてきたのだ。
 短く激烈な戦闘は夕刻には終わった。東の退魔師一族も半数以上が死傷する大損害を受けたが、妖魔軍団をあらかた殲滅することには成功していた。
 こうして警視庁攻防戦は朧花が周到に仕組んだ伏兵によってからくも退魔特捜側に軍配が上がったのである。そしてこの日を境に東京は再び人類のものとなったのだった。

「大治くん、来ないで!」
 冬仔は核ミサイルを阻止するため、聞き慣れぬ呪文を唱えてしまった。
 呪文の威力はすさまじく、ミサイルはその空間ごと異次元へと転送されてしまったが、その詠唱で力を使い果たしたのか冬仔は力無く空中を落下していく。
「……来るなってなんなんだよ! 冬仔さんを見捨てるわけねーじゃねえか!」
 大治は落下していく冬仔の下に回る。地上すれすれでなんとか受け止めることができた。
「いや……見ないで……」
 変身をといた大治は同じく変身をといた冬仔を見る。彼女の半身は異次元の妖魔と半ば融合していた。妖魔は彼女の半身の中で触手を振り乱してのたくっている。それは呪文の代償というにはあまりにもひどい有様だった。
「冬仔さん……」
「あっちにいって!」
 冬仔は髪を振り乱して泣く。
 彼女がとっさに唱えた呪文によって一時的に邪神が召還され、ミサイルごと次元を斬ることができた。だが、しかし、あまりにも重すぎる代償である。
「冬仔さん……」
 大治は冬仔を抱きしめた。それ以外に彼女を慰める方法をほかに知らなかった。冬仔は醜い半身をのたくらせて泣いた。

 東京湾に第1から第4までの各護衛艦隊群の生き残りが集結していた。空母や原子力潜水艦の姿こそないが、日本各地の根拠地艦隊が集結しており、遙かな昔、大平洋に覇を唱えていた聯合艦隊の復活を彷彿とさせるさまはまさに壮観だった。
 朧花たちを載せた内火艇は旗艦であるイージス護衛艦こんごうに向かう。東京湾外にはアメリカ大平洋艦隊が待機している。彼らは海上自衛隊と歩調を合わせ、朧花とともに敵の本拠地に殴り込みをかける予定なのだ。
「ルルさん、いっぱい死にましたね」
 潮風を吸い込み、香澄がいった。瞳に光る水滴は涙ではなく海水だろう。
「これからもたくさん死にます。おそらく私もあなたも、そしてこの娘も……」
 ルルは昏睡している朧花を抱き寄せる。狩人と朧花の悲恋を目の当たりにしたルルにとって、朧花は護衛すべきVIPではなく、愛しい妹のような存在になっていた。
「それでも闘わなければならない……」
「せつないです……ね」
 潮風がどうしようもなく寒かった。

 南緯四九度五一分、整形一二八度三四分の海上にポツンと浮かぶ無人島に邪神を奉る海底神殿があった。
 南の退魔師一族の根拠地であるその神殿に柴田と夕夜、そしてムスカ教授が足を踏み入れる。
「ほほぉ、見たまえ夕夜クン。あの彫刻はユカタン半島の人面石に似た意匠を持っておる。こっちの悪魔像は古代スキタイ帝国の悪魔にそっくりじゃわい」
 なにがそんなに面白いのか、教授はホウホウとため息をつきながらキョロキョロと神殿の周りを眺め回している。
「教授、ちょっといいかげんにしてくださいよ」
 たまらず夕夜がたしなめたが、教授は少しもめげずにツルリと夕夜の尻を撫でた。
「おうおう、半年前と比べて肉付きが良くなっておるわい。柴田にかわいがって貰っておる証拠じゃなあ」
「きゃっ☆ ん、もう、教授のエッチィ!」
 柴田は呆れて何もいわない。そうこうしているうちに神殿の主があらわれた。柴田が跪き、慌てて夕夜がそれにならう。教授はポカーンとバカのように突っ立ているだけだった。
「ようこそ、我が神殿に」
 神殿の主、南の退魔師一族の族長、ニコラス瑞城がいった。
 錆びついた声、長身だがあばらの浮いた痩せた身体、気怠げそうな表情を持った美青年である。
 彼はごく自然に服を着ていなかった。病的な外見に似合わず、圧倒的な雰囲気を持つ彼にとって服は無用の長物なのだろう。その股間のモノも自然に天に反り返っていた。
 ニコラスが柴田たちの側まで歩み寄ってきてねぎらいの言葉をかけている。彼は台本を読むように淡々と、柴田たちが退魔特捜を裏切って警視庁ビルを崩壊させた功績は大きく、私はその偉業に対する報酬を用意しなければならないと演説した。
 その退屈な演説のさなかに、柴田の視線が夕夜に合図を送ってくる。夕夜も視線で返事を送り、スカートの内側のUZI短機関銃に手を伸ばす。
「動くなっ!」
 柴田が呪文の彫り込まれた短剣をニコラスの心臓の真上に突き立てる。
「動くなっていってんでしょ!」
 主人の危機に慌てて駆けつけようとしたインスマウス数匹がテルミットを仕込んだ夕夜のUZIに薙ぎ倒される。
「フフフフ、いったい何のマネです」
「何のマネだと? ハハッ! お笑いだぜ! わからないのなら教えてやろう。仲間を裏切り警視庁を破壊したのは、お前に近づき、暗殺するためだ! なにしろお前は退魔師一族の長とはいえただの人間だからな!」
「そうよ。あなたさえ殺せばこの戦争は終わるのよ! そのためなら裏切り者といわれても怖くはないわ!」
「そんなことをいっても柴田さん、あなたは魔物だ。その背中のコウモリの翼が何よりの証拠」
 ニコラスは柴田の背中の羽を指さした。
「俺は人間だ。夕夜がそういった。俺が夕夜と一緒になるには、あんたの野望が邪魔なんでな。悪いが死んでもらうぜ」
「なるほど、人間の女にたぶらかされたのか……闇の血を引く者としては笑止ですね」
 ニコラスが陰々滅々とした声で嘲笑う。
「そうでもないさ。だが、貴様こそみじめだ。邪神を復活させようと目論んだ男の死に様がこんなものではな」
「死に様? 誰が死ぬというのです? 死ぬのはあなた達ですよ。あなたを狂わせた人間の女ともども醜く死ぬのです」
 ニコラスの指が自然に動いて夕夜の喉笛を握りしめる。
「こ、この野郎ッ!」
 カッとなった柴田の短剣がニコラスの胸板を貫いた。ちょうど心臓の真上である。
「バカッ! こいつをいま殺したら私たちがここを脱出できないじゃない!」
 夕夜に叱られ、柴田は冷静さを取り戻す。
「……フフフフッ、安心してください。私は心臓の一つや二つでは死にませんから」
 ニコラスが呆然とする柴田を突き放す。まだ、胸にはまだ短刀が刺さったままだ。よく見ると血は一滴も流れてはいない。
「星辰は揃いつつある。邪神の神官である私もまた不死身になりつつあるのです……」
「バカな……」
 柴田と夕夜が顔を見合わせた。この男を殺すことはできないのか?
「ほほう、それでは原子の一片にまで還元されてもまだ死なないというのかね? それは興味深いことじゃ」
「ムスカ教授!」
「若いの、これがわかるかね? これは南極の狂気山脈の地下から発見された超古代文明の遺産じゃ」
 それは何の変哲もない珠だった。だが、その表面は七色に輝き、常に一定することのない模様を描いていた。
「原理は良くワカランが、こいつは爆弾じゃ。マニュアルを解読したところ、こいつのエネルギー量は核爆弾一万個に等しいとあったからの。不死身だなんだといっても、この島ごと原子に還ってしまえば復活は無理な相談じゃろ」
「教授……」
「なに、わしもお主らに誘われたときに死を覚悟したわい。いくらわしでも、世界が滅ぶのはイヤじゃからな」
 夕夜に抱き起こされた柴田が彼女の手をギュッと握る。
「何もしないで殺されるよりはいい。やってください」
「柴田……」
 夕夜が目を閉じ、柴田に抱きついた。
「なに、痛いのは最初だけじゃよ」
 教授は下品な冗談を飛ばすと爆弾を起爆させた。
 世界が真っ白になり意識が飛んだ。
 ……
 頭の中にもやがかかったような状態がだんだんと薄れてくる。
 夕夜の意識がだんだんとハッキリしてきた。身体のあちこちがキリキリと痛む。彼女は縄で縛られ、宙吊りにされていた。妙にスースーすると思ったが、それは服を着ていないからだった。
 目の前には鉄格子があった。どうやらここは牢獄らしい。後ろの方は見えないが、かなり大きな牢獄だ。
 何かが鉄格子に刺さっている。彼女はその何かをよく見ようと目をこらした。
「……あ……あはっ……」
 柴田とムスカ教授の生首だった。
「アハハハハハッ……」
 夕夜は狂ったように笑った。
 いや、狂っていたのだ。
 牢獄の奥から彼女の狂気につられるように、不定形のゼリー状の物体が近寄ってくる。
「あなたはだあれ?」
 正気を失った夕夜はバケモノに語りかける。物体はゆうやの下半身を呑み込み、秘唇を押し開き、クリトリスに灼熱感を与えた。
「あついっ!」
 夕夜の顔が恍惚に歪み、口の端から唾液が漏れた。理性を失い、自分から腰を動かしておねだりをする。
 透明な物体が夕夜のアソコを限界まで押し開きつつ侵入した。子宮の全体に淫らな液体が吹きかけられ、夕夜の身体が淫猥な欲望に震え、ヒクヒクと痙攣する。

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「ああああぅん、いいのぉー!」
 夕夜のアソコから淫水が滝のように流れ出た。
 発狂という果実は甘くて淫靡だった。