第12話;「この女を心ゆくまで犯しなさい」


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 非可燃性の壁に巨大なメルカトル世界地図がかかっている。
 矢立朧花と彼女の護衛であるルル・イエーガー、そして朧花の一族の者で死天衆のリーダー格だった氷室香澄の三人に与えられた部屋はひどく広かった。
 テレビやオーディオ、エアコンもあればシャワーもあって、さらにマホガニー製のソファやしゃれた室内灯まであった。まるで豪華客船のような設備である。
 朧花たちは世界各国海軍の残存艦艇の参集した巨大な艦隊の旗艦である空母クリントンの提督室にいた。
 空母クリントンはクリントン級のネームシップで排水量二〇万トン、搭載機数一五〇機のモンスター空母である。艦隊中枢を担う役目も期待されており、通信・指揮関係の設備も充実している。また、それほどの艦でなければアメリカ大西洋艦隊やインド洋・地中海艦隊、さらにはイギリス・フランスの艦艇も参加しているこの巨大な艦隊の旗艦にはなれない。
 それもこれもこの朧花というたった一人の少女を敵中枢に送り込むために準備されたことだった。思えば気が遠くなるような出来事だが、事実はもっと残酷だ。闇の血を引くモノどもが世界各地の都市に侵攻し、制圧しているという。
 それまでその存在すら知られていなかった闇のモノどもを目の当たりにした人々はパニックをおこした。最新の統計によると都市部に住む人類のうち約三分の一の人間が死ぬか、闇の血に目覚めさせられたと報告している。
 事件の首謀者は南洋の孤島に隠れ潜むニコラス瑞城。彼は全滅したと思われていた南の退魔師一族の族長だった。
 ニコラスの目的は邪神の復活。人類を丸ごと壊滅させるつもりらしい。
 ルルの所属している国連妖魔捜査室はこの未曾有の危機を朧花という少女の手にゆだねることに決定した。
 退魔師の世界ではその身体に流れる血の濃さが能力の優劣を決定する。その意味では日本の東西南北を守護する退魔の一族ほど古く濃い血筋はなく、その血筋を引く朧花にニコラスが止められなければほかの誰にも地球滅亡を防ぐ手だてはないことになる。
 そのうえこの艦隊には世界中で集められてきた優秀な退魔師たちが便乗している。彼らを一人の欠員もなく敵地に上陸させるのがこの艦隊の使命なのだ。
 だが、それら退魔師たちの頂点に立ち、彼らを導くはずの朧花はいまだ微熱に浮かされ伏せっていた。これでも容態は徐々に良い方向に向かっているのだが、彼女の意識は相変わらず朦朧として一日のうちに数時間だけ目を覚ましている状態だった。
 ルルと香澄が朧花の熱っぽい身体を起こし、服を脱がせていく。筋肉質な白い肌に浮かんだ汗を拭い、身体の隅々に彼女の一族に伝わる香油を塗りこんでいく。この香油には解熱効果があるらしい。
 香澄のてのひらが朧花の胸を包み込む。この数ヶ月で彼女の身体は大きく変わっていた。胸や尻に肉がついて女らしくなったのだ。あの事件で処女を失ったことに関係があるのだろう。そんなことをぼんやりと考えていると朧花が目を覚ました。
「……夢をみていたわ」
 朧花がいった。ルルが香油を塗りこむ手を休めた。
「どんな夢ですか」
「学校の夢よ。あたしと大治が喧嘩して、ルル先生が止めに入って、そんな夢よ。たった数ヶ月前のことなのに大昔のことのように感じるわ」
 朧花に表情はない。感傷を抜きにして淡々と事実を述べているようだった。
「まだ、思い出すのですね」
 朧花の処女を奪ったのは怪物の触手だった。その暗い思い出がいまだに彼女を責めさいなんでいた。
「大丈夫です。朧花様が直接、敵の親玉とぶつかれば……死んでいった仲間達の仇もとれる……」
 香澄の瞳から涙が流れた。死んでいった死天衆のことを思い出すと自然にこうなってしまう。
 朧花は沈黙している。
「だって、だって、朧花様が仇を討ってくれなければあいつらは犬死にになってしまうじゃないですか」
 香澄が朧花の乳房に爪をたてて、血が流れた。それでも朧花は沈黙している。
「ねえ、朧花様。もちろん敵の親玉が死ぬところは予知できているんですよね? ね?」
「……なにも見えないわ。敵地に上陸してからのことはなにも……」
 香澄の顔が真っ青になり、そして歪んだ。
「だって、朧花様は、必ず勝つって、だからみんな喜んで死んで……」
 朧花は否定もしなければ肯定もしなかった。ただあらぬ方向をボヤッとした表情で見つめているだけだった。
「カスミさん、彼女を責めないでください。それ以外にどうしようもなかったんですから」
 ルルが激高した香澄をなだめようとするが、彼女はルルを突き飛ばした。
「そんな、そんな、そんな曖昧な理由でみんなを死地に導いたんですか……!」
 平手打ちが朧花の頬に決まった。
「まさか……」
 いくら微熱が続き消耗しているからとはいえ、格下の人間に簡単に殴られる朧花ではない。香澄はあることに気がつき朧花の目前で手を振ってみた。
「やっぱり……朧花様、目が……」
 朧花のうつろな瞳は彼女の目前で振られる手に何の反応も示さなかった。ルルの方を見ると、彼女は黙って首を振っていた。
「大丈夫よ。まだ少しは見えるし、たとえ目が見えなくても復讐はできるわ。それに一族と封牙先生の仇は絶対にとるまで死なないって決めてるの。香澄、あんた、あたしを誰だと思ってるの?」
 矢立の一族には成人を迎えると微熱を出す特徴がある。それは闇の血を最も濃く受け継ぐ血筋のモノが払わなければならない代償だといわれていた。
 朧花の視力が悪くなったのもちょうど微熱が出始めた頃だった。それがバケモノに犯された後遺症なのか、それとも微熱の副作用なのかは本人にもわからない。そもそも微熱がこんなにも長引くことは代々の当主にもなかったことなのだ。
「すこしも知らなかった……」
 そこで香澄はハッと気がつく。カッとしていたとはいえ、族長の朧花を平手で叩いてしまったのだ。ただで済むはずがない。
「あの、朧花様……」
 声を掛けたときにはすでに朧花の意識はなかった。
 微熱が彼女の身体を火照らせはじめている。しかも今度の熱っぽさはいつも以上だった。
「朧花様!」
 香澄が心配そうに見守るなか、ルルが朧花の額に手をやった。朧花は「ねえさん、ねえさん」と苦しそうにうわごとをいっている。
「このままでは危ないですね」
 ルルは服を脱ぐと、自分の身体に香油をまぶしはじめた。
「ルルさん、なにを……」
 ルルが自分の身体を朧花に押しつけた。彼女の熱っぽさを少しでも吸収しようということなのだろう。香澄も裸になると香油を塗りたくり、朧花を抱いた。
 彼女はまるで一本の松明のようなものだった。それでも自分の乳房を押しつけ、足を絡ませるとだんだんと向こうの体温が下がっていくのが感じられる。
 いつしか彼女のうわごともやみ、三人は抱き合ったまま眠ってしまう。

 東京・新宿。
 かつてこの街は日本一の繁華街と呼ばれていた。しかし、今では怪物どもの徘徊する魔の街となっている。
 闇のモノどもにのっとられたホワイトハウスの誤指令によって東京にICBMが発射されたのは今から三時間前のことである。
 西の退魔師を統べる一族の長・刃締冬仔と、北の退魔師を統べる一族の長・木村大治は新宿上空に駆けつけICBMを迎撃したが、運悪く核弾頭の一発が二人の迎撃をすり抜けてしまう。そのとき冬仔は一族に伝わる禁呪を唱え、異次元の妖神を召還した。
 それによって核の爆発こそ防げたが、代償として冬仔は身体の半分を異次元の妖魔と融合させられてしまった。
 大治は醜く変化し、歩くこともままならない冬仔を肩に担ぎ、南へ向かう。南には全ての元凶、ニコラス瑞城がいるはずだった。先行した朧花と合流しなければならない。
 新宿都庁舎ビル。その巨大なコンクリの塊の真下で大治と冬仔は、かつて相まみえたことのある強敵とバッタリ巡り会った。
「おひさしぶりです、大治お兄さま、そして冬仔お姉さま」
 深々と頭を下げる金髪の幼女のドレスに赤黒いものがこびりついていた。血だ。それは朧花を護衛していた死天の一人、裕仁の血だった。
「なんのようだ……マセガキ!」
 大治はギリッと奥歯を噛みしめる。一番会いたくない相手に出会ってしまった。
「あら、マセガキだなんて。私にはエイリア瑞城という名前があるのよ」
「瑞城?!」
 では、彼女は南の退魔師一族の血統なのか。いわれてみればなるほどとうなずける。そうでなければ大治や冬仔、それにあの朧花さえ手玉に取った実力は説明できない。
「冬仔さん、ちょっと待っててくれ。あのガキを倒してくるから」
 大治は肩に担いでいた冬仔を地面に横たえる。
「大治クン……」
「大丈夫、すぐ戻る」
「フフフフッ、その醜い女が西の退魔師のなれの果てなのね」
 エイリアがクスクスといやらしく笑った。
「なにがおかしい!」
「ダメ、大治君、敵はああやってこっちを攪乱しようとしてるのよ」
 冬仔が無事な方の手でいきりたつ大治をなだめた。
「邪神の力を借りて身体を乗っ取られるなんて、ね。お笑いですわ」
「邪神だと? 邪神を呼び出そうとしているのはお前らの方じゃないか!」
「あら、大治お兄さまは何も知らないのですか」
「知るも何も……」
 冬仔が何かを言いたげな顔をしている。
「そう、冬仔お姉さまは知ってるのよね」
 東西南北を守護する退魔師一族はそれぞれ強力な闇の血統を引き継いでいる。
 その血の源となったのは邪神と呼ばれる存在だった。この地球に存在する、あるいはかつて存在したなかでも最強の力を誇る邪神の落とし子、それが冬仔や朧花、大治そしてニコラスの血筋だった。
「ニコラスお兄さまの血筋がクトゥルーと呼ばれるもの、そして冬仔お姉さまの血筋がハスター、大治お兄さまの血筋がツァトゥグア、朧花お姉さまの血筋はクトゥグアと呼ばれるもの。みんな負けず劣らずの凶悪な邪神の末裔なのですわ」
「そ、それじゃあ……」
「大治お兄さまや冬仔お姉さまがその力をお使われになるとき、その力は邪神の力を借りていることになりますわね。たしかハスターは風の神だったとか。冬仔お姉さまの翼もそのあたりに関係があるのかしら。でも、ちょっと邪神の力を借りただけでそんな姿になるなんて血が薄くなっている証拠ですわ」
 ホホホホッと半身が醜く変形した冬仔を嘲笑う。
「……お前らはいったい何を企んでいるんだ。お前らも邪神の血を引く者ならば、俺達や世界を巻き込まないで勝手に邪神を復活させればいいはずだ。……なぜ、邪神の末裔とかいう俺達にこだわる」
「……ウフフッ、バカだバカだと思っていたけど、本当は頭がいいんですわね」
 エイリアは右手をあげた。その右手の先の空間から熱エネルギーが奪われ、空気中の水分が結晶化し、氷になる。
「邪神をこの世に復活させるには生け贄がいるのですわ。邪神の末裔なら生け贄として効果は十分……でも、失礼ですけど冬仔お姉さまや大治お兄さまは血が薄すぎますわ」
 朧花の一族に伝わる初夜の儀式が如実に物語るように彼女の一族は近親交配を重ねてきた。それは知っていたが、闇の血を保存するために行っていたとは思いもしなかった。
「それで朧花をつけまわしていたのか……」
「世界中探しても、あれほど邪神に近い方はお兄さま以外には見つかりませんわ」
 邪悪な微笑み。それが戦闘開始の合図だった。
 氷の槍が風を斬って大治を襲う。だが、その槍はてんで見当違いのところに飛んでいった。
「なにを……」
 ハッと振り向くと氷の槍が狙っていたのは大治ではなく、身動きの出来ない冬仔だった。止める間もなく冬仔の身体は血の海に浸った。
「冬仔さん……」
 駆け寄った大治は見たくもないものを見る。氷の槍の一本が彼女の頸動脈を貫いていた。出血がおびただしく、傍目から見てもわかるぐらいに彼女の顔色が悪くなっていく。
「……して……」
「えっ?」
「……して……」
「なにをいってるのかわからないよ、冬仔さん!」
 冬仔は失われ行く最後の生命力を振り絞るかのように口を開けた。
「私を……吸収……して。そして……朧花を……かわいそうな……あの娘を……誰も……理解して……受け継いだ……血は……あの娘の……せいじゃ……」
「もう喋らないで!」
「私を……吸収しな……さい。そして……朧花を……迎えに……はやく……生きている間に……」
「そうよ。吸収しなさい。あなたたち血の薄いモノ同士でくっついて、少しでも強くなってくれなければお兄さまの役には立たないわ」
 エイリアが微笑みながらいう。人の命を道具としか考えていないのだ。全てはお兄さまの役に立つか立たないか、彼女の人間を見る基準はそれしかない。
「テッ……テメェ……!」
「フフフフッ、いきがっても勝てないわよ」
 再び氷の槍が形成される。今度は数え切れないほどの数だ。
「俺もあれから強くなったんだぜ。後悔させてやる!」
「ご冗談を!」
 氷の槍が襲いかかってくる。目にもとまらぬスピードで、そのうえものすごい風斬り音だった。大治は慌てて体表を硬化させる。
「な、に……?」
 硬化したはずの体表を氷の槍が何本も貫通する。まるで装甲が豆腐のようだ。
「闇の血の濃さの違いですわね。氷の槍でも音速まで加速させれば簡単に貫けますわ」
 大治の体から血が勢いよく噴出した。倒れかかる大治にさらに数百本の氷の槍が突き刺さる。
「ぐっ、ぐはあっ……」
 無数の風穴を開けられ、ついに大治は地面に横たわった。無力感がこみ上げてきた。
 その大治の指がだんだんと冷たくなる冬仔の身体に触れた。迷っている暇はなかった。大治は冬仔の身体を吸収する。
「冬仔さん、ごめん!」
 その瞬間、彼女は微笑んでいた。
 もしかすると気の迷いだったのかもしれない。
「グオオオオオオオオオッ!」
 身体が熱かった。闇の血に目覚めるとはこういうことなのか。冬仔の身体を吸収した大治は吠える。
「ようやくお兄さまのシナリオ通りになってくれたわね。さあ、次はあなたを……」
 グルルルルルルゥッ……
「……なに、この力は……」
 大治の体がどんどん大きくなっていく。筋肉がきしみ、見るものを圧倒させるオーラが身体中に溢れていく。
「合体したばかりだというのにもうこんな力が……」
 はじめてエイリアが脅えの表情を見せた。
 氷の槍が放たれた。音速まで加速された必殺の凶器は、大治の表皮で弾かれる。だが、大治は特に体表を変化させた様子はない。
「私の槍がまったく効かない?」
 巨人と化した大治が少女の元にズシンズシンと歩みよってくる。いうまでもなくその股間のものは直上に向かっていきり猛っていた。
「ひ……!」
 エイリアの金髪をつかんで持ち上げると、服を切り裂いた。苦し紛れで連発する氷の槍はすべて弾き返される。
 大治の双腕がエイリアの股を思いっきり開く。
「ええいっ!」
 エイリアが挿入される直前の男根をつかみ、冷却させた。死にものぐるいで放った冷気はパキパキと音を立て、男根とその周囲の空気を凍らせていく。
 だが、そんなものは何の役にも立たなかった。シュウシュウと湯気を立て、氷が溶けていく。
「うそ……」
 巨大な男根が幼女の膣に挿入された。
 アソコの肉が裂ける音がする。
 股関節が外れ、骨が軋んでいる。
 男根が四分の一ほど膣の中に埋まった。その状態で男根の先端は早くも子宮に達していた。
「あがっ!」
 悲鳴すら出せない。
 だが、まだ終わってはいなかった。残りの男根が強引に攻め込んでくる。
 幼女は泣いた。彼女がはじめて見せる涙だった。
 そして身体がフッと消えてなくなった。

「あ……お、お兄さま!」
 エイリアの前に魔法陣の中で結跏趺坐をするニコラスの姿があった。この南海の孤島まで彼女をテレポートさせたらしい。
「エイリア、お前はよくやった」
「でも……」
「心配するな。あの男も朧花もいずれ遠からぬうちにこの島に来るだろう。その時のために我が妹よ。お前にさらなる力を授けよう。きたれ……」
 大治に下半身を破壊されたエイリアは兄の元ににじり寄る。
 ニコラスの指が妹の破壊された下半身を優しく撫でる。それだけで劇痛にさいなまれていた彼女の下半身から痛みが消えた。ものすごいスピードで傷が治癒していった。

 空母クリントン艦橋には穏やかな中に一抹の緊張感を含んだ空気があった。
「まだ彼女らは部屋を出ないのかね」
 全世界の海上戦力を集めた大艦隊を指揮するヤマモト提督がいった。彼は日系三世のアメリカ人である。彼の双肩に全世界の運命がかかっているといってもよい。
「イエッサー。いったい彼女らはいつまで部屋に籠もっているつもりなのでしょうか」
「知らんよ。我が艦隊の目的はローカとかいう退魔師の少女と世界中から集めた退魔師千人を敵の本拠地に上陸させることだ。それ以外のことで彼女らには干渉するなと国連からも厳命されておる」
「しかし、これだけの艦隊があればテロリストの陣取る小島の一つや二つ、跡形もなく粉砕することも簡単でしょうに。原子力空母をはじめイージス艦、巡洋艦、駆逐艦、原子力潜水艦、さらに退役してモスボールになっていた戦艦まで、世界中から動ける艦船の全てをかき集めた地上最強の艦隊ですからね。わざわざ年端もいかない退魔師に頼るまでもないでしょう」
「命令は命令だ。通常兵器では妖魔どもに効果が薄いことは君も承知しているだろう」
「そうですね、しかし……提督、ルル・イエーガーの提案したあの案はどうなさるおつもりですか」
 朧花たちと一緒に乗船した国連妖魔捜査室のルルが、強襲揚陸艦タラワに搭乗している退魔師軍団を艦隊を構成する全ての艦船に分散乗船させるよう助言をしたことだ。要するに対妖魔のスペシャリストをそれぞれの艦に乗せることで迎撃をやりやすくさせようという案である。
「我々の任務は退魔師の護衛だ。退魔師に護衛して貰う必要はない。それに海の専門家は我々だ。違うかね」
「もちろんそのとおりです」
 副官の言葉にうなずきながらヤマモト提督は双眼鏡に手を伸ばす。レーダーやソナーが発達した現在では、もっとも原始的な監視方法である。
 水平線三六〇度のどこにも敵影はない。いや、本当にないといえるのか? 敵は生身の人間が変身したバケモノである。そんな小さなターゲットがレーダーやソナーに反応するはずがない。艦隊は昼も夜も総出で肉眼による監視に余念がなかった。
「ピケット艦ヨークシャーより入電。10時の方角に敵影発見! 水平線に無数の影が見えるそうです!」
「ヤマモト提督!」
「うむ、全艦に通達! 最大戦速、全火器オールフリー、作戦計画MADOO発令!」
「全艦最大戦速、全火器オールフリー、作戦計画MADOO発令!」
「AWACSを交戦地域の上空へ! 護衛のF−18もたっぷりつけろ!」
「了解、そのように伝えます。……提督! ピケット艦オンタリオから入電! 敵の攻撃を受く。以上です」
 ヨークシャーとオンタリオは艦隊前方のピケットを任されている。
「これは待ち伏せだな……いや、突っ切るしかあるまい!」
「提督! 輪形陣のまま突っ込むのですか? 敵が待ちかまえているのならくさび形の陣形の方が……」
「これが敵の罠とではないとなぜ言い切れるね。我々を背後から挟み撃ちにすることくらい戦術の常識だ」
「そ、それは……しかし相手は妖魔どもです……」
「提督! 艦隊後方に占位するピケット艦あさぎりから入電! 敵後方から猛スピードで侵攻中とのことです」
「包囲されたな……」
「各ピケット艦に伝達! レーダーを最大出力にしろ。一時間でレーダーが焼き切れてもかまわん!」
「は、はいっ!」
 ピケット艦とデータリンクされた空母クリントンのCIC室及び艦橋に瞬時に状況が転送される。
「なんて数だ……」
 レーダーが映し出したのは艦隊を中心に画面全てを埋め尽くさんばかりの輝点だった。ひとつひとつの輝点が人間サイズの物体だとすると、まったく気の遠くなりそうな数が艦隊を取り囲んでいることになる。おそらく数億匹はいるだろう。
「これほどとは……提督、いかがいたしましょうか」
「……うむ。作戦計画MADOOを堅持。全艦最大戦速でこの包囲網を突破する!」
 命令が復唱され、実行に移される。
「提督、CIC室へ」
「いや、ここでいい。肉眼で状況を見たいからな。それよりトーキョーで便乗したローカとかいう退魔師をここへ」
 副官が艦内通話機を使う。
「提督、ローカは気分がすぐれないそうです。断ってまいりました」
「この非常時に……」
「強引に連れてきましょうか」
「いや、退魔師とはいえ民間人だ。ここは我々だけで切り抜けよう」
 数分後、前衛と後衛をつとめていたピケット艦がそれぞれ一瞬にして撃沈された。
 敵は数にモノをいわせ、必死に抵抗するピケット艦にとりつくとそのまま全乗員を虐殺したという。
「……全艦に動揺が走っています。敵の攻撃……方法は異常です」
 艦隊の先端が敵包囲網に接触した。艦砲、ミサイル、爆雷に打ち据えられた敵の被害は相当なものだろう。しかし、味方の死体を乗り越え踏み越え、ついに前衛の艦も乗組員を虐殺され、迷走をはじめてしまう。
「提督! このままでは……」
「核の使用を許可する。甲板で作業している乗組員を全て収容、タイコンデロガに妖魔どもを焼き払うよう伝達せよ」
 タイコンデロガから垂直発射式のトマホークが発射され、戦術核を搭載したミサイルが艦隊周縁部で炸裂した。
 まるで巨大な閃光弾だった。戦術核の有効範囲はせいぜい一千メートル。だが、何も遮るもののない海上ではそれ以上の効果がある。
「戦果を確認!」
「艦隊に損害なし! 敵包囲網前縁に甚大なダメージを与えました! 効果ありです!」
「よし、戦術核搭載艦にそれぞれターゲットを割り振れ!」
 活気を取り戻した艦隊から次々にトマーホークが発射されていく。
「対空レーダーに反応! 敵有翼妖魔です! トマホークが次々に撃墜されていきます!」
「制空戦闘機隊はなにをやっていた!」
「敵の数があまりに多すぎます!」
「原子力潜水艦ロサンゼルスから入電! 海中にも無数の敵が確認されました!」
「空中も海中も包囲されたか」
「こちらタイ……デロガ……、緊急……敵……もう……うわぁっ!」
 タイコンデロガから意味不明の入電が入る。双眼鏡で見ると、タイコンデロガに敵の有翼生物や深きモノどもが群がり、ネイビーブルーの艦体が妖魔の身体で黒く染まっていた。
「タイコンデロガ、迷走を始めました……」
「提督! 再び艦隊に動揺が走っています! 恐怖に駆られて持ち場を離れるものが続出しています!」
 艦隊の統制が目に見えて悪くなっていく。と同時に、抵抗の弱まった艦隊の輪形陣外周が次々に崩れていった。
「クソッ! なにか打つ手はないのか!」
 不意に艦隊が冷静さを取り戻した。効果的な反撃が行われるようになり、再び敵を押し返していく。
「奇跡か……いや、何が起こったんだ!」
「原因不明……いや、本艦船首に人影!」
「なにっ!?」
 双眼鏡をのぞくと朧花、香澄、ルルの三人が空母クリントンの飛行甲板先端部に立っている。彼女たちがそこにいるだけで敵が脅え、味方が活気づいていた。
「なんて奴らだ……」
 艦隊はボロボロになりながらも敵包囲網を突破した。

 朧花たちの目指す南海の小島は現地人たちによってル・リエーと呼ばれてきた。
 一部の好事家たちはこの島がかつて大平洋にあったというアトランティスの一部であると信じて疑わないという。アトランティスといえば大いなる神の怒りに触れ、たった一夜で大陸全体が沈んでしまったという伝説が残っている大陸だ。
 現実問題として大陸が一夜で沈んでしまうことなど−−それこそ本当に神が降臨しない限り−−考えられないことだから、まゆつばな部類の伝説なのだろう。
 そのル・リエーの地下深くの石牢の中に夕夜が捕らえられていた。恋人の柴田やムスカ教授とともに、退魔特捜を裏切ったように見せかけこの島に潜入した彼女たちだったが、企みはあっさりと露見して、柴田とムスカ教授は殺され、夕夜は捕らえられてしまった。
 二人の生首が見守るなか、気の触れた夕夜は裸で鎖に繋がれ、ヘラヘラと笑いながら怪物たちに犯されていた。
 いったい何匹の怪物に犯されたのか、狂気のあいまにふっと戻る曖昧な正気のさなかに彼女は自分の腹の中で何かが動き回る感触に気が付いた。見ると腹が臨月の妊婦のように大きく膨らんでいる。妊娠したのかもしれない。
 夕夜の混濁した意識は狂気にたちかえり、幸せだった柴田とのセックスを思い出す。それは恐怖からのやむをえない逃避だった。
 やがて赤黒い触手が彼女の腹を突き破ってこの世に生を得る。ソレは彼を産んでくれた気の狂った母を食べ、周囲にいた妖魔をも喰らって巨大に成長していった。
 無数の触手を持つその生き物は新たな餌を求めて這いずり始めるのだった。

「なにっ!?」
 海中から巨大なタコの脚のような触手が持ち上がり、タイコンデロガの艦体に巻き付いた。
 あの海戦のあと、ルルの勧告に従って艦隊に便乗していた退魔師軍団は艦隊各艦に分散配置された。そのおかげで第二次・第三次の海戦もなんとか切り抜けることができた。
 ヤマモト提督としては、護衛すべき退魔師を実戦に参加させ、少なからぬ消耗を強いてしまったということで作戦の成り行きに満足はしていないらしいが、艦隊が全滅するよりはましだった。
 そしてル・リエーまであと一日の距離に迫ったとき、そのバケモノがあらわれた。
「タイコンデロガが……ああっ!」
 巨大な触手がタイコンデロガを二つに折ってしまった。バラバラと落ちているゴマ粒のようなモノは人間だ。へし折られた艦の各所で爆発が起こっている。搭載していた弾薬が誘爆しているのだろう。
 海面に落ちた乗組員が苦悶の悲鳴を上げた。彼らは触手に巻き付かれ、海面下に沈められていく。しかし、イージス艦を二つに折ってしまうような巨大な触手を持つバケモノとはいったいどれほどの大きさを持っているのだろうか?
「あれはダゴンと呼ばれる邪神の眷属ですね」
 最初の海戦以来、艦橋に詰めている香澄がいった。ルルは相変わらず微熱にうなされる朧花と提督室にいる。
「邪神の眷属……ですって?」
「ええ。邪神の親戚筋のバケモノです。邪神ほどではありませんが、その破壊力は大陸を沈めるほどの威力を持つといわれています。幸いにあのダゴンは生まれたばかりでヨチヨチ歩きしかできないようですが」
「よ、ヨチヨチ歩き……」
 ヨチヨチ歩きでイージス艦を真っ二つにされてはかなわない。
「おそらくあの怪物さえ退ければ、もう敵側に防衛線は残っていないはずです。でなければ生まれたばかりの邪神の眷属を派遣してくるはずがありません」
「なるほど。だが、問題はヨチヨチ歩きでも我が艦隊を壊滅させられるという点だ。いったい我々はどうやって対処すればいいのかな」
「私に任せてください。私は我が一族の中で朧花様につぐ呪力を持っています」
 本来、邪神の眷属といえど退魔師の手にはおえない代物なのだ。だが、香澄は悲壮さも激烈さも見せず淡々とした表情でいった。
「しかし、準備にいささか時間がかかります。その間の時間稼ぎを提督にはお願いします」
「了解した。さっそくとりかかってくれたまえ」
 提督は旗下の艦隊にとにかくダゴンにむけて集中砲火をするように指令した。だが、また一隻、そしてまた一隻と艦が脱落していく。
「副官、アイオワを呼び出せ!」
「提督、この状況下で戦艦にどのようなご命令を……」
「たしかに戦艦の主砲ではあのような高速の敵を迎え撃つには向いていない。だが、敵が艦を二つ折りにしようとしているときは別だ。そこを犠牲になった艦ごと砲撃する。砲弾はもちろん戦術核搭載だぞ」
「ですが、それでは艦に残っている人間も……」
「これは命令だ。復唱せよ!」
「あ、アイアイサー! そのようにアイオワに伝えます!」
 地上最強だった艦隊も今では旗艦空母クリントンのほかには、戦艦アイオワ及び巡洋艦・駆逐艦が数隻残すのみとなっている。原子力潜水艦艦隊は第二次海戦のさいに全滅したし、その他の艦艇も移乗した退魔師の活躍も虚しく海の藻屑になっていた。その生き残った残り少ない仲間を犠牲にしなければならないとはなんというありさまなのか。そしてこの命令に誰よりも断腸の思いを抱いているのは命令を下した提督本人なのだ。
 不意に海面がもりあがった。その近辺にいたのは海上自衛隊最後の生き残り、イージス護衛艦きりしまであった。きりしまのトップヘビーな艦体がねじ切られようとしているとき、アイオワの16インチ砲三門を積んだ砲塔三基が轟音を発しつつ戦術核搭載徹甲弾(この任務のためにわざわざ実験兵器の倉庫から取り寄せた)を発射した。
 きりしまは瞬時に蒸発してねじくれた鉄塊になった。九発の戦術核が小さな艦体に集中したのだ、無理もない。そしてダゴンの触手もまた消し飛んだ。
「やったか!?」
 海面がさらに大きく盛り上がった。ついに怒れる海の邪神、ダゴンがその大いなる全身をあらわにした。
「うげえっ!」
 艦橋にいたオペレーターの一人が吐いた。それほどに醜悪な姿だった。
 ダゴンは触手を吹き飛ばしたアイオワに向かってくる。アイオワから再び戦術核搭載徹甲弾が発射され、ダゴンの身体に少なくない風穴が開いたがあまりにも至近距離だったためにその爆風はアイオワそのものにもダメージをあたえた。
「全艦、アイオワを支援しろ!」
 ありとあらゆる兵器が空と海からアイオワを抱え込んだ邪神の眷属に集中する。だが、戦術核の直撃にさえ耐えた相手では、それも焼け石に水だった。
 その頃、香澄は空母クリントンに分乗していた百人ほどの精鋭退魔師の力を借りて空母甲板に巨大な魔法陣を描いていた。
 魔法陣はアイオワが沈んだ頃にようやく完成した。百人の退魔師がそれぞれ魔法陣の上に散らばり、呪文を唱え始める。呪文は矢立家に伝わる禁呪だった。
「イア、イア! クトゥグア! クトゥグア! フォーマルハウト!」
 魔法陣の中心にいる香澄に巨大な呪力が集中してくる。全能感に浸され、酔っぱらったような気がしてくる。
 やがて巨大な炎の塊が、あまりにも純粋な高熱の塊が魔法陣から召還される。術者たる香澄と百人の退魔師はその瞬間に高熱であぶられて息絶えた。
 炎熱の邪神の一部が召還された空母クリントンの艦上はひどい有様だった。艦橋にいた提督及びそのスタッフはすべて戦死したし、甲板の鋼板は焼けただれ、構造材はねじまがり、スクリューを支える支持架が歪んだ。
 召還されたクトゥグアの一部はあたりに炎と死を振りまきながら海中のダゴンに突進する。轟々と海水が水蒸気爆発を起こし、二〇万トンの空母が木の葉のように揺れた。
 時間にすればごく短い時間だったが、香澄が応急的に描いた魔法陣で召還したクトゥグアはごく短時間しか地上にいることはできない。だが、その短い時間でクトゥグアはちゃんと仕事をやり遂げた。ダゴンは燃やし尽くされ、死に絶えたのだ。
 この最後の海戦で唯一生き残ったのは機関部を破壊され漂流するしかない空母と、相次ぐ激しい戦闘で同乗していた退魔師を含む乗組員のほとんどが戦死した英国駆逐艦トラファルガーだけだった。

 湾曲した三日月型の無人島。それがル・リエーを上空から見た感想だった。
 いまだに微熱の続く朧花と彼女を看護するルルを乗せたシーキングヘリコプターは傾いた空母クリントンから飛び立った。
 艦隊の生き残りはすべて駆逐艦トラファルガーに収容され、朧花とルルだけがヘリコプターで敵の本拠地を目指すことになった。全艦隊で生き残った退魔師は七名、しかも全員が負傷していた。ルルは執拗に同行をせがむ彼らを駆逐艦の護衛に回し、自らは朧花と志願したパイロットだけを引き連れ、ル・リエーに向かった。
 ヘリコプターが何の抵抗も受けず、ル・リエー上空に到達した時には気が抜ける思いだったが、敵もすでに死力を使い尽くしたのだろう。頭の隅でそれは違うという声が鳴り響いていたが、そう無理に思いこもうとした。
 ほとんど目の見えなくなった朧花の手を取り、ヘリコプターから降りると疑問は氷解した。
 ル・リエーのあちこちに異形の死骸が横たわっていた。その数は十や百ではきかないだろう。見渡す限りの場所に妖魔の死骸が横たわっていた。
「これは……いったい」
 何者かが彼女たちよりも早く上陸したに違いない。それも死体の散らばり方から判断してたった一人の仕業だろう。しかし、これだけのことをあっさりとやってのける人間なんているのだろうか。もしかすると内部で紛争が起こっているのかもしれない。
「ルル先生はヘリコプターに戻りなさい」
 朧花がいった。矢立神社の巫女服を着て、愛用の武器ポラリスを持っている。彼女はほとんど失明しているはずなのに、ルルを押しやるとハッキリした足取りで島の中心部に向かう。
「いいえ、一緒に行きます。あなたは目が……」
 朧花の身体から呪力がほとばしった。ルルはそのすさまじいばかりの力に圧倒される。
「まだ、目は見えるわ。でもね、ここから先は、あんたみたいな普通の退魔師がついてきても足手まといなの」
 ルルは一言も返せない。ここまで命がけで連れてきてやったのに、まるで手のひらを返すようではないか。利用するだけ利用したらサヨウナラといっているようなものだ。ルルは情けなくなって涙が出てきた。朧花という娘を実の妹のように思ってきたのにこんな仕打ちを受けるなんて。
「さあ、とっとと帰りなさい!」
 朧花の指先がスパークする。その雷撃がルルを弾き飛ばした。
「それともバカは死ななきゃなおらないのかしら」
 ルルはとぼとぼとヘリコプターに戻った。
 朧花はかすむ瞳でヘリコプターが島を立ち去るのを確認すると、島中央部にある唯一の人工建築物に向かう。
 犠牲はもうたくさんだった。
 やがて神殿のようなものが見えてきた。
 それはクメールやマヤ、ギリシャの宗教遺跡にどことなく雰囲気が似ていた。だが、きっとこの神殿を設計した人間は狂気に犯されていたのだろう。構造材がグロテスクに歪み、人間の空間認識能力の限界をあっさりと越えるような床の不気味なグラインドがかかっていて、いま自分がどこに立っているのかさえわからなくなってしまう。
「……かえって目が見えない方が惑わされないですむわね」
 朧花はしっかりした足取りで神殿の地下に降りていく。
 もう一時間は歩いているだろう。妖魔どもの死体はゴロゴロとあったが、生きている妖魔には一匹も会わなかった。とはいえ体調の万全でない朧花の呼吸はだんだんと荒くなっていく。微熱も再びぶり返してきた。
 とうとう我慢しきれなくなって壁に身を預けて座り込む。唯一の武器であるポラリスさえ持っているのが重く感じられた。少し眠ろう。こんな体調でニコラスに出くわしたらシャレにならない。朧花は目を閉じた。
 目を覚ますと、世界は闇に包まれていた。何度かまばたきをすると、ぼやーっとした世界が戻ってきた。体調は快復したが、今度は目の方がダメになってきたらしい。
「まったくうざったいわね」
 あくまで強気に憎まれ口を叩きながら起きあがる。
 しばらく歩くと終点が見えた。
 神殿の終点は広大な海底神殿の祭壇の間だった。インスマウスどもが祭壇の後ろに控え、大いなる邪神を褒め称えるコーラスを単調なリズムでうなっている。そして祭壇には幾多のうら若い女性が串刺しになって鮮血を滴らせていた。
 祭壇の中央、魔法陣の中心には全裸の男女がいた。ニコラス瑞城とエイリア瑞城の兄妹だ。二人は淫猥な音をたててまぐわっていた。
 朧花はポラリスに呪力を流し込み、炎の剣に変化させて握りしめる。
「我が運命の少女のおでましだ」
 ニコラスの深く澄んだ声が朧花を出迎えた。
 エイリアが秘所から白い液体を溢れさせながら兄のもとから離れる。
「ずいぶん遅いおでましですわね、朧花お姉さま」
 朧花はいらうような幼女の出迎えの言葉を無視した。彼女の視線を釘付けにしたのは、祭壇の後方にある十字架だった。そこにはりつけにされているのは大治だった。
「まったく……役に立たないんだから」
 大治は虚ろな瞳をこちらに向けている。目は開いているが、正気ではないのだろう。だが、そんな様子とは裏腹に股間のイチモツは凛々しく反り返っている。
「大治お兄さまは冬仔お姉さまを吸収してパワーアップなさったんですよ。でも、ニコラスお兄さまにお力を分けていただいたわたくしの敵ではございませんでしたわ」
 どうやったのかは知らないが、大治は先行した朧花よりも早くこの島にたどり着き、島を守っていた妖魔どもをなぎ倒してこの祭壇に先行したらしい。しかし、新しい力を手に入れたというエイリアに敗北し、はりつけにされてしまったのだろう。
「大治お兄さまを倒したわたくしの技、お知りになりたくはありません?」
 エイリアが妖しい微笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
「遠慮しとくわ。あたしにはあんたなんかと遊んでいる暇なんかないのよ」
 朧花がポラリスを握りしめた。炎の剣が伸び、伸縮自在の炎の鞭になる。
 鞭はあっさりとエイリアの幼い身体を絡め取った。骨も砕けよとばかりに締め付ける炎の鞭が幼女の身体を焼く香ばしい匂いが祭壇に満ちていく。無限の力が身体の中から沸いてきている。絶対に負ける気はしなかった。
「死になさい!」
 朧花がポラリスにさらに呪力を流し込む。その瞬間だった。エイリアの瞳が妖しい光を放ち、朧花の失明しかかっている瞳にその光が注ぎ込んでくる。それと同時に身体から力が抜けた。
 炎の鞭のいましめから脱出したエイリアの焼けただれた身体が急速に治癒していく。朧花は床に横たわったまま何もできずにいる自分が信じられなかった。
「イービルアイ。少しでも闇の血を引く人の魔性を射すくめる力です」
 エイリアは朧花を仰向けにすると紅白の袴を脱がしていく。幼女の繊手が朧花の桜色の乳首をひねり、薄い恥毛の先にある肉芽をほじくった。朧花の意識はその全てを知覚している。だが、喘ぎ声が漏れるだけで身体に力が入らない。エイリアのなすがままだった。
「お兄さま、お兄さまの運命の少女です。隅々まで見てくださいまし」
 エイリアの細く白い指が朧花のヴァギナをパックリと開いて見せた。愛液の滴るそこを大きく開かせ、奥の奥まで兄に見せようとする。朧花の顔は嫌悪に歪み、やめてくれと唇が動いた。だが漏れる声は喘ぎ声ばかり。
「どうやらお兄さまも満足しているみたいですわ。誇ってもいいことですわよ。なにしろ邪神召還の儀式の花嫁として認められたのですから」
 エイリアの顔に一抹の嫉妬の表情がよぎった。いくら大望成就のためとはいえ、自分以外の人間が兄に抱かれるのを不快に思っているのだろう。エイリアはポラリスを掴むと乱暴に朧花のクリトリスにこすりあわせた。
「アッ、アッ、ヒッ、アフッ!」
「せいぜいよがり狂いなさい。あなたを待つ運命は、人の望みうる最大の快楽を遙かに上回る地獄なのよ」
 エイリアはヒクヒクとわななく朧花のアソコにポラリスを挿入する。大量の愛液がとめどなく溢れて太股と紅白の袴を濡らした。
「まあ、お姉さまのくせにお漏らしなんて」
 エイリアは朧花を裏返し、剥き出しの尻に平手打ちを何発も喰らわした。
「アッ! ウアッ!」
 朧花の身体は叩かれるたびに痙攣し、愛液をダラダラと流す。
 白いお尻が真っ赤になったところでようやく気が済んだのか、今度は朧花の尻の穴を舐め回す。その執拗さには間違いなく兄をとられる事への嫉妬が混じっていた。ニコラスはそんな妹のサディスティックな痴態を何もいわずに眺めているだけだった。
「……変ね、お姉さまの呪力が少しも高まらない」
 自分の愛液にまみれた朧花を蔑すむように、エイリアが彼女の乳房を足蹴にした。
「お兄さま、まだこの娘は持てる呪力の十分の一も発揮させておりません。このままでは邪神復活にさしさわりがあります」
「深海の王の御座を使え」
 エイリアはうなずき、妖魔の一匹に朧花を担がせると、無数の妖魔を従え祭壇の真下にある部屋に移動する。
 そして朧花に首輪をしめ、ニチャニチャと不気味に蠢く床に座らせる。
「アアウッ!?」
 床の一部が唐突に盛り上がり、座り込んだ朧花を犯す。この部屋は生きているのだ。
「お前たち、一刻後の儀式までこの女を心ゆくまで犯しなさい」
 エイリアは部屋に参集する妖魔たちに命令する。その数は百や二百ではきかない。種類もおびただしい限りだ。おなじみのインスマウスもいればゾウ顔のチャウグナー・フォーンもいる。ミ・ゴ、ユゴスよりのモノ、ムーンビーストといった珍しい顔ぶれまでいた。
「ただし、膣の中に射精してはいけませんし、殺してもなりません。それはお兄さまのためにとっておきなさい。お前らの任務はこの女の呪力を最高まで高めること。お前らも知っているとおり、退魔師はエクスタシーを感じることで最大の呪力を発揮します。せいぜい淫らにいやらしく犯すのです」
 妖魔たちは待ちきれないかのように、朧花に殺到する。床に犯されていた彼女を引き上げ、剛毛の生えた肉棒がかわってねじりこまれる。尻にはぶよぶよした触手が侵入し、口には淫らな液体が流し込まれる。乳房はたえず揉まれ、身体中に猥雑な液体にまみれた繊毛がのたくっている。
 汚濁した液体が彼女の身体からあふれ、身体中に射精された汁は腐った匂いはなっていた。
 次々に新手の妖魔がのしかかり、彼女を犯していく。寸秒の間もない。ありとあらゆる妖魔が人外のテクニックで朧花のエクスタシーを引きだそうとしていた。

illast

 朧花の意識は混濁していた。一方ではエクスタシーに身もだえ、もう一方の意識は冷えた氷のように冷静に事態を受け止めている。
 エクスタシーに身もだえる意識はこのまま快楽の底に沈んで楽になれと叫ぶが、冷えた意識は怒りの炎をメラメラと燃やし、逆転のチャンスを狙っている。
 だが、犯され続けていくうちにだんだんと冷えた意識は朦朧としてくる。そして意識が朦朧とするたびに呪力が高まっていく。これこそエイリアの望んでいたことだった。そうとわかっているのに逆らえない。
「堕ちなさい、そして楽になりなさい」
 エイリアのマインドコントロールする声が脳髄の深くまで染み込んできた。
 朧花の脳裏にこの島にたどり着くまでに犠牲にした面々の顔が思い浮かんでは消え、そして……。